Episode 03:追憶のノイズ
【導入:閉ざされた境界線】
(BGM:緊張感を煽る低いドローン音。車載カメラの映像。山道の砂利道を行くVERITASクルーのSUV。)
ナレーション(タクヤ):
20XX年、夏。我々VERITASクルーは、10年前に集団失踪事件が発生した廃村「虚ろ村」へと向かっている。前回の検証で、事件が10年周期で繰り返される「贄の儀式」であった可能性が高まった今、我々は単なる調査ではなく、この儀式の実行犯、あるいはその背後にある「何か」との接触を試みることになる。
(車内のタクヤ、ケンジ、サクラ。)
ケンジ:
タクヤさん、村の入り口まであと数百メートルです。山全体が、急に空気が重くなったような感じがします。
サクラ:
私も同感です。この辺りから、携帯の電波が圏外になりました。GPSも頻繁にフリーズしています。10年前の『虚ろファイル』の記録と全く同じ状況です。
タクヤ:
(インカムに話しかけながら)よし、予定通り、ここから村の中心部までは徒歩で進む。ケンジ、メインカメラは絶対に回しっぱなしにしておけ。サクラは、超低周波マイク(ELF-Mic)の感度を最大に。
(テロップ:検証開始 - 虚ろ村 境界線付近)
(映像:クルーが森の細い道を歩く。古びた木製の鳥居のようなものが道の先に立っている。)
ナレーション(タクヤ):
虚ろ村の境界線を示す、朽ちかけた目印。この一歩が、我々を外界から完全に切り離すことを意味する。
(画面が切り替わり、村の広場へ。廃屋が立ち並ぶ。)
【パート1:最初の異常:GPSと時間の歪み】
(映像:村の中心部。全ての家屋が同じ方向を向いて朽ちており、異様な統一感がある。)
タクヤ:
これが、虚ろ村の中心地だ。10年前の取材クルーが最後の夜を過ごしたとされる、唯一比較的大きな集会所が、この奥にある。
サクラ:
(手元のタブレットを確認しながら)おかしい。設置した定点カメラのGPS座標が、急激に揺れ始めました。数百メートル移動したというログが出ています。しかし、カメラは動いていません。
ケンジ:
GPSの誤作動?こんな山奥じゃあり得ますよ。
サクラ:
いえ、ケンジさん。緯度経度ではなく、標高のデータです。今、我々の標高が、一瞬だけ10年前の『虚ろファイル』のログと完全に一致したんです。そしてすぐに、元の数値に戻った。
ナレーション(タクヤ):
物理的な移動がないにもかかわらず、GPSが過去の座標を示す。まるで、この場所が「時間」のズレを内包しているかのようだ。この現象は、我々が今立っている場所と、10年前に失踪した彼らが立っていた場所が、何らかの力によって「鏡合わせ」のように結びついている可能性を示唆していた。
(タクヤ、集会所のドアを開ける。)
タクヤ:
集会所に入る。内部は荒れているが、当時のクルーが使った痕跡がある。今夜の検証はここで敢行する。
【パート2:夜の始まりとノイズの増幅】
(映像:夜になる。集会所の窓を遮光し、機材を設置するクルー。赤外線カメラの映像が混じる。)
サクラ:
時刻は午後11時。10年前、失踪したとされる時間帯まであと1時間です。
ケンジ:
ELF-Mic、スタンバイ完了。周囲の環境ノイズはゼロです。
(タクヤ、懐中電灯で床を照らす。)
タクヤ:
よし、全員準備しろ。サクラ、ノイズの発生を待つだけでなく、こちらから『虚ろファイル』の音声を流して、村の音場を刺激する。
サクラ:
了解。ノイズのピーク時に抽出された「ニエ」という音声を、無指向性スピーカーから流します。
(サクラがタブレットを操作すると、スピーカーから「ニエ…」という、かすれた音声が超低音で再生される。)
(数秒後、ケンジがヘッドフォンを外して耳を塞ぐ。)
ケンジ:
うわっ…なんだこれ!?何も聞こえないのに、頭の奥がジンジンする!
サクラ:
ELF-Micが反応しました!波形を見てください!『虚ろノイズ』の規則的なサインカーブが、環境音として発生しています!我々が流した音声をきっかけに、村の空間自体が「呼吸」を始めたんです!
(画面に超低周波マイクの波形が表示される。緩やかだが強烈な、30Hz以下のサインカーブが乱舞している。)
ナレーション(タクヤ):
村全体が持つ「音の檻」は実在した。このノイズは、人間の平衡感覚と精神を直接攻撃する音響兵器だ。我々は恐怖を感じる一方で、この現象こそが、失踪事件の物理的な「鍵」だと確信する。
【パート3:超低周波マイクが捉えた「追憶の叫び」】
(映像:ケンジが苦しそうにカメラを構えている。タクヤとサクラも顔を歪めている。)
タクヤ:
ノイズが強すぎる!サクラ、波形を最大限にフィルタリングして、他の音声を分離しろ!
サクラ:
試みます!…来ました、タクヤさん!ノイズのピーク時に、前回検出した「ニエ」とは全く異なる、不規則な高周波の音声が記録されています!
(サクラがフィルタリングした音声を再生する。それは、恐怖と絶望に満ちた、聞き取りにくい「男の叫び声」だった。)
音声(過去のクルー?):
「やめろ…どこに行くんだ!戻ってこい…俺たちを、置いていくな!」
ケンジ:
これは…10年前の取材クルーの声…!?
タクヤ:
間違いない!この音声は、『虚ろファイル』には残されていなかった!超低周波ノイズが作り出した、時空を超えた反響音だ!彼らの絶望の瞬間が、この場所の音場に残っていたんだ!
サクラ:
音声の発生源を逆探知します!…この叫び声は、この集会所の、まさに今、ケンジさんが立っている位置から発生しています!
(ケンジがハッとして足元を見る。彼の影が、床に不気味に伸びている。)
ケンジ:
俺が…ここで叫んでるのか…?
ナレーション(タクヤ):
失踪したクルーが最後に発した言葉が、彼らが立っていた座標に残留し、10年後の我々のマイクによって「再生」された。それは、この村が単なる廃墟ではなく、**過去の悲劇を永遠に反復する「記憶装置」**であることを意味していた。
【パート4:映像のシンクロと二人の撮影者】
(映像:激しくノイズが走る中、ケンジがカメラを操作している。その背後で、タクヤが過去の『虚ろファイル』の映像をモニターで確認している。)
タクヤ:
ケンジ、今すぐカメラを回して、集会所の奥の壁を映せ!
ケンヤ:
どうしました?
タクヤ:
『虚ろファイル』の映像が、今、完全に我々の集会所の様子とシンクロしている!10年前の映像と、今の映像が、同じアングル、同じ場所に設置されたカメラを捉えている!
(画面が二分割される。左が現在のケンジの映像、右が『虚ろファイル』の粗い映像。)
(『虚ろファイル』の映像に、壁際に立ち、必死にメモを取っている「男」の姿が一瞬だけ映る。)
サクラ:
あ!見てください!『虚ろファイル』に写っているあの男…彼は、10年前の取材クルーの一人、カメラマンのタカシです!
タクヤ:
タカシ…彼が、この集会所で最後の記録を残した。しかし、よく見ろ、サクラ。彼の背後、暗闇の中に、もう一つ別の影が見える。それは、タカシが使っていたカメラの…赤外線照明の光だ。
(映像をズームアップ。タカシの後ろの暗闇に、小さな赤い光点と、カメラを構えるような人影がぼんやりと確認できる。)
サクラ:
つまり、タカシを撮影している**「もう一人の撮影者」**がいる?
ケンジ:
待ってください、タクヤさん…タカシは最後の撮影者として、誰にも撮られていないはずじゃ…。そのカメラ、まるで俺たちが今使っている赤外線カメラみたいに、熱源を追っているみたいだ…。
ナレーション(タクヤ):
事件は新たな次元へと突入した。失踪したはずの取材クルーを、誰が、なぜ、そして何のために撮影していたのか。その「もう一人の撮影者」は、10年前の事件の鍵を握る、村の媒介者なのか。あるいは、我々と同じように、この悲劇を検証しに来た、過去のクルーの亡霊なのか。
(タクヤは、その「影」がいたとされる方向へ、恐る恐る懐中電灯を向ける。)
タクヤ:
…ケンジ、その影がいた場所の熱源を、サーモグラフィーカメラで確認しろ。
(ケンジ、サーモグラフィーカメラを起動し、壁の隅を映す。壁は冷たい青一色だが、床の隅の一点だけが、異常に高い温度を示す赤色に光っている。)
[テロップ:異常熱源検出 - 過去の撮影者の痕跡か?]
サクラ:
何ですか、あの熱…?人間ではない、まるで巨大な生物の体温のような…。
(その瞬間、集会所の外から、何かが地面を這いずるような、重く湿った「擦過音」が響き渡る。クルーは言葉を失い、カメラの映像だけがその音を拾い続ける。)
(画面にノイズが走り、強制的にブラックアウト。)
(次回予告テロップ:Episode 04:鏡合わせの家)
ナレーション(タクヤ):
次回、我々はサーモグラフィーが捉えた謎の熱源、そして「もう一人の撮影者」の正体を追って、村の奥深くにある廃屋へと侵入する。そこで発見されたのは、10年前の取材クルーの残した、現代のクルーの持ち物と瓜二つの「鏡合わせの痕跡」だった。**
(画面がノイズと共に終了。)
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