Episode 04:鏡合わせの家

【導入:熱源の追跡と新たな痕跡】


(BGM:かすかに響く低周波音と、クルーの荒い息遣い。)


ナレーション(タクヤ):

前回の検証で、我々VERITASクルーは虚ろ村の集会所にて、10年前に失踪した取材クルーの叫び声、そして『虚ろファイル』の映像に映り込んだ「もう一人の撮影者」の痕跡を掴んだ。その撮影者が最後に立っていた場所から、サーモグラフィーカメラは異常に高温な熱源を検出した。


(映像:集会所の床。ケンジがサーモグラフィーカメラで床を映している。青い床に、真っ赤な円形の熱の跡が残っている。)


ケンジ:

この熱、壁沿いの床に残っています。触れてみると、まだほんのり暖かい。人間の体温じゃない。もっと、ねっとりした、何かが溶けたような熱さです。


サクラ:

解析結果です。この熱源が残した物質は、人間の皮膚のタンパク質と、未知の鉱物的な微粒子が混ざり合っています。まるで、何らかの力が人間を高温で「焼き付けた」後のような痕跡です。


タクヤ:

「焼き付けた」…つまり、あの「もう一人の撮影者」は、この場で肉体を失ったか、あるいは「贄の儀式」によって変質させられたか。


(映像:タクヤが集会所の壁の隅を指さす。壁に、誰かが親指で擦り付けたような、古びた血液のようなシミが残っている。)


タクヤ:

ケンジ、この熱源から一直線に、外へ向かう導線がある。このシミだ。


ナレーション(タクヤ):

血液とも判別がつかない、乾いたシミは、集会所の裏手にある一軒の廃屋へと続いていた。我々は、この廃屋こそが、失踪したカメラマン、タカシが最後に立ち寄った場所、そして「もう一人の撮影者」の正体に迫る鍵であると判断した。


【パート1:鏡合わせの廃屋への侵入】


(映像:クルーが廃屋の前に立つ。他の家よりも、若干新しい印象を受ける。)


タクヤ:

この家だ。村の中心地から少し離れている。村の指導者の家か、あるいは外部の人間であるタカシのために用意された家かもしれない。


サクラ:

(家のドアに近づき)鍵は壊されています。侵入された痕跡がありますね。ケンジさん、超低周波マイクの感度を上げてください。村の中心部よりも、この家の方がノイズの反響が強い可能性があります。


ケンジ:

了解。


(ケンジがマイクを構える。その瞬間、ELF-Micがわずかなノイズを拾う。しかし、それは前回のノイズとは異なり、非常に小さな、囁き声のような連続した音だった。)


サクラ:

今、何か拾いました。とても静かな音声です…しかし、音声の周波数パターンが、前回検出した「ニエ」の儀式に関わる超低周波ノイズと、完全に同期しています。


タクヤ:

つまり、この家こそが、ノイズの中心地…儀式の「媒介者」たる、タカシが最後にいた場所ということか。


(クルーが家の中に侵入する。内部は荒れているが、生活用品が不自然なほど散乱している。)


【パート2:残されたタカシの私物】


(映像:家の中。リビングのような場所。テーブルの上に、10年前のものと思われる機材と、メモ帳が残されている。)


ナレーション(タクヤ):

我々は、テーブルの上に残された機材を発見した。それは、失踪したカメラマン、タカシが使用していたものに間違いない。しかし、その中には、奇妙なものが含まれていた。


(映像:サクラがテーブルの上のアイテムを検証する。)


サクラ:

これを見てください。古いビデオカメラ、そして…これはデジタル一眼レフカメラのバッテリーです。10年前の機材としては珍しい、高性能なバッテリーですが…ケンジさんの予備バッテリーと、メーカーも型番も全く同じです。


ケンジ:

え…嘘だろ?10年前に、この最新型のバッテリー?いや、形状は似ているけど、これは…俺のやつだ。


タクヤ:

落ち着け、ケンジ。それはタカシのものだ。だが、サクラが言ったように、まるで我々が持ち込んできた機材を、10年前に誰かが「予習」していたかのようだ。


(サクラが、古いメモ帳を開く。表紙には「タカシ」と走り書きされている。)


サクラ:

タカシの日記です。日付は失踪の数日前で止まっています。


(画面に日記の内容のクローズアップ。内容は荒れた文字で書かれている。)


サクラ(読み上げ):

「…村の連中は、俺たちのカメラが目当てだ。彼らが信じている『闇の神』は、外界の目を通してしか現れられない。ディレクターは気づいていないが、俺はもう撮りたくない。撮れば撮るほど、俺たちの役割が、この村の『贄の数』を埋めるために設定されていると感じる。」


ナレーション(タクヤ):

タカシは、自らの調査が儀式の一部であることを予感していた。そして、彼が記録していた「役割」とは、この10年後の我々のことではないのか。


【パート3:我々の役割と「空白の鏡」】


(映像:ケンジがタカシの残した古いポラロイド写真を見つける。)


ケンジ:

タクヤさん、これ。タカシのクルーの写真です。失踪した6人の顔が写っています。


(画面に写真が映る。6人のクルーが笑っている。)


タクヤ:

よし、顔を確認しろ。ディレクター、リサーチャー、カメラマン、音声、照明、アシスタント。6人だ。


サクラ:

待ってください。タカシの残した資料によると、彼らのクルーは当時、7人構成だったはずです。ディレクターと、もう一人、プロデューサーが同行していた。


タクヤ:

プロデューサー…?しかし、この写真には6人しか写っていない。


ケンジ:

写真が不自然に切られています。左端が雑に破り取られていて、まるで誰かの存在を最初からなかったことにしたようだ。


ナレーション(タクヤ):

彼らのクルーに存在した、破り取られた「空白の鏡」。それは、現在の我々VERITASクルーの編成に欠けている「プロデューサー」という役割を指しているのか。そして、最も重要なのは、その「プロデューサー」という存在が、集団失踪事件の記録上、常に曖昧にされていたという事実だ。


(サクラが、日記の最後のページを見つける。そこには、日記というより、外部への警告文のようなものが書かれていた。)


サクラ(読み上げ):

「ニエ・ヲ・マ・コ・ト・ス。俺は、もう媒介者だ。この映像を見ている次のソトツムギ(外界の者)に警告する。お前たちの『数』は揃えられている。ディレクター、リサーチャー、カメラマン…そして、『空白』。お前たちの中から、必ず一人が『闇の奥の神』の撮影者となる。」


タクヤ:

「撮影者」…タカシが映り込んだあの「もう一人の撮影者」のことか。彼は、儀式によって、自分と同じ役割の者が、我々のクルーの中から選ばれることを知っていた。


【パート4:再構築される悲劇】


(映像:クルーの背後に迫る影。緊張感が高まる。)


タクヤ:

タカシは、儀式を止めようとしたのではない。彼は、自分が儀式の一部であると悟り、我々を警告するためにこの記録を残したんだ。我々の3人という編成は、儀式が要求する「数」に満たない。しかし、この日記にある「空白」とは何だ?


サクラ:

(超低周波マイクを指さし)今、ノイズが急上昇しています!音声解析の結果、この家から、前回集会所で抽出された「男の叫び声」と、全く同じトーンで、別の声が響いています!


(音声:激しいノイズの中から、女の悲鳴と、苦痛に喘ぐような声が響き渡る。)


音声(過去のクルー):

「待って…!置いていかないで!カメラ…カメラを壊して!」


ケンジ:

別の声だ…!この家で、タカシとは別の誰かが、儀式の瞬間に絶叫した!


ナレーション(タクヤ):

この廃屋は、10年間の時間の壁を越え、再び悲鳴を上げ始めた。そして、我々が「空白」について議論したまさにその時、家全体を包み込むように、超低周波ノイズが最高潮に達した。


(映像:ケンジのカメラが、家の窓ガラスを映す。窓ガラスが、低周波の振動で細かく震え、外の闇が歪んで見える。)


(タクヤ、インカム越しに叫ぶ。)


タクヤ:

退避しろ!このノイズは、村を「呼吸」させている!ケンジ!窓の外、何かがいるぞ!


(窓の外の暗闇。ノイズに歪んだ映像の中で、一瞬だけ、人影とも獣影ともつかない、**巨大で、黒く、湿った「影」**が窓を横切る。その「影」には、小さな赤い光点が、まるで目玉のように二つ、輝いていた。)


ケンジ:

(叫びながら)あれは…!!カメラの赤外線…!あの影が、俺たちを、カメラで撮っている!


(映像は激しく揺れ、悲鳴とノイズの混ざった音と共に、強制的にブラックアウトする。)


(次回予告テロップ:Episode 05:儀式の痕跡)


ナレーション(タクヤ):

次回、我々は恐怖に駆られながら、虚ろ村の深部にある「奥入り」の祠を目指す。そこで待つのは、タカシが残した「贄の構造」のすべてを明らかにする古びた祭壇。そして、我々のクルーの「空白」を埋めようとする、得体の知れない存在だった。**


(画面がノイズと共に終了。)

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