第9話 レンと名乗る者

僕は、レンと名乗る少女のあとを歩く。


レンはこちらを振り返ることなく、ただ静かに前を向いて進む。


今、走り出せば――きっと追いつかれない自信があった。

それでも、なぜかそんな必要はないと思っている自分がいた。


信じたわけじゃない。

距離は保ったまま。

けれど――直感が告げていた。


この少女は、危険ではない。


「……ここよ」


レンが足を止めた先には――


「……廃村……?」


“村”と呼べるのかさえ曖昧な場所。

誰も住んでいない、朽ちかけた家がいくつか残されているだけの、静かな土地。


「昔はもう少し家があった……今はこれだけ。

あの家を使って」


レンは、道の端に立つ一軒の家を指さす。


屋根は崩れ、壁には苔が生え、窓には板が打ちつけられていた。

けれど雨風は、かろうじてしのげそうだ。


レンは、淡々と告げる。


「この村は、神聖院の聖域の端。

魔物は近づかない。追手も、そう簡単には来ないわ」

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