第7話 知る者
まだ日が昇る前、町は眠っていた。
城門には兵士が二人。
けれど、僕を探している様子はない。
追跡の騒ぎは、まだ森の方だろう。
(今の内に――)
人気のない裏道を選び、
農具置き場の塀を越え、
物音を立てないように自分の家へ近づく。
家は、まだそこにあった。
扉も割られていない。
窓も壊されていない。
――誰も来ていない。
それが、逆に不自然だった。
中に入る。
静かだった。埃も、荒らされた跡もない。
けれど。
机の上に見覚えのない包みが置かれていた。
革袋の水。
干し肉、パン、外套。
そして、小さな紙が一枚。
【すぐ兵士が来る。
町に留まらず、北の街道へ。
小川の手前で――待ってる。
――今度は私があなたを守る――】
(……誰だ?)
名前も印もない。
筆跡にも、見覚えはない。
けれど――
“僕の居場所を知っている誰か”が、
たしかにこの家に来ていた。
僕はしばらく動けなかった。
罠かもしれない。
行けば神聖院や騎士団が待ち構えているかもしれない。
それでも――
最後の一文だけが、どうしても頭から離れなかった。
(……僕を、守る?)
知り合いなのか?
わからない。
けれど、その言葉には、不思議と敵意がなかった。
――ずっとひとりで逃げ続けられるわけじゃない。
そう思ってしまった。
思ってしまった以上、もう止まれなかった。
本当に知っている誰かなら。
今のうちに――会わなければならない気がした。
家を振り返る。
もう元の生活には戻れないのだと、
この時ようやく、はっきりと理解した。
扉を閉める音は、驚くほど静かだった。
夜明け前の道を、僕は歩き出した。
――あの小川へ。
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