第1章 魔法少女アクアエイル 編

第2話 恋と魔法の始まり~愛の告白は突然に~①


逢月あいつきさん、好きです。僕と付き合ってください」

「えええええええええええええええっっっっっ!?!?」


今からおよそ、1ヶ月前の放課後。

場所は中学校の図書室にて。

僕は同じクラスの逢月あいつきみうさんに告白した。


「えっ? ええっ!? えっ? えっと、えっ!?」


しかし、僕が予想していた反応とは違い、逢月あいつきさんはかなり狼狽している。

その証拠に、さっきから彼女から発せられる言葉が、ほぼ「え」で構成されている。

ただ、そのバリエーションの豊富さは、さすがは逢月あいつきさんだと僕は思う。

『え』ってな、200種類あんねん、と心の中の誰かが呟いたところで、ようやく落ち着いた逢月あいつきさんが会話を進展させる。


「あ、あの……宮守みやもりくん。その、好きっていうのは、ど、ど、ど、どういう意味なのかな?」

「ん? どういう意味って?」

「あの、その……だからね……、友達として好き、とか、同じ図書委員だから、とか、そういう意味での好き、なのかなって……」

「ああ、それなら、もちろん異性として好きってことだよ。僕はね、逢月あいつきさんとこうして誰もいない図書室で過ごす時間が好きだし、2年生から同じクラスになってからも、教室で僕に挨拶をしてくれる逢月あいつきさんを好きなんだ。他にも休み時間に本を読んでいる逢月あいつきさんの顔や、クスッと笑った時の逢月あいつきさんの笑顔なんかも……」

「す、ストップ! 宮守みやもりくん!」

「どうしたの、逢月あいつきさん。大丈夫? 顔が真っ赤だよ?」

「だ、だって、宮守みやもりくんが変なこと言うから……恥ずかしくて……」


自分の手で顔を覆い隠した逢月さんは、そのまま下を向いて俯いた状態になる。

図書室のカウンターに並んで座っているので、今、図書室に入ってくる人がいたら逢月あいつきさんの姿は見えないだろう。


「ね、ねえ、宮守みやもりくん……」


すると、逢月あいつきさんは指先の隙間から、ちらりと僕の方へ視線を向けると、か細い声でこんな問いかけをしてくる。


「さ、さっき、『付き合ってください』って、言ったよね? そ、それって、わたしが宮守みやもりくんと……」

「うん、恋人同士になってほしい」


そして、僕は彼女の顔を見ながら告げる。


「駄目……かな?」


そして、逢月あいつきさんも顔を隠していた手をそっと降ろして、僕を見つめる。


「あ、あのね……その、凄く、嬉しいよ。宮守みやもりくんは、いつも優しいし、図書委員のお仕事をいっぱい手伝ってくれるし……」


恥ずかしそうにしながらも、しっかりと僕の目を見て話す逢月あいつきさん。

ただ、その表情の中に、悲しみが帯びていたことを、僕は見逃さなかった。


「でもね……わたし、きっと宮守みやもりくんの気持ちに応えられないと思う。わたしが宮守みやもりくんの恋人なんかになったら、きっといっぱい迷惑をかけちゃうから」


申し訳なさそうにする逢月あいつきさんの顔をみて、僕の心がズキリ、と痛みを発する。

ただ、それは自分の告白が失敗したからではなく、彼女の優しさに触れてしまったからだ。

今の彼女は、僕を傷つけないようにしてくれている。


「だ、だからねっ! きっと宮守みやもりくんには、わたしなんかよりいい女の子とお付き合いできるよ! わたし、そうなったら、いっぱい応援するよ!」

「……ごめん、逢月あいつきさん。それは絶対ないと思う。僕は……ずっときみのことが好きだったから、他の人のことを好きになるなんて、あり得ないよ」


そして、僕は強がる素振りをみせながら、彼女に告げる。


「でも、ちゃんとこうして伝えられて良かったよ。自己満足かもしれないけど、逢月あいつきさんの気持ちを知れただけでも、僕は……」

「ち、違うのっ!」


すると、今度は逢月あいつきが僕の言葉を遮って、話し始める。


「あのねっ、わ、わたしが宮守みやもりくんのこと、嫌いだからとかじゃないの! むしろ、わたしだってずっと、宮守みやもりくんのこと……」


そして、彼女は涙声になりながら、僕に何かを告げようとする。


宮守みやもりくん。わたしね、本当は――」



「いいじゃん。付き合っちゃいなよ」



しかし、逢月あいつきさんの告白は、ひとりの女子生徒に遮られたのだった。

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