彼女が魔法少女であることを僕だけが知っている ~好きな子が世界を救う魔法少女だったので正体を知らない振りをしてそのままお付き合いすることにしました~

ひなた華月

序章 僕と魔法少女のはじまり

第1話 ドキドキ!?恋と魔法のデートタイム!


202X年、日付は11月30日。

時刻は午後の1時頃。


僕は待ち合わせ場所である地元の駅前の噴水広場の前に到着した。


「ああ、冷えるな、ほんとに……」


すっかり寒くなってしまった外気の気温に身体を震わせて、僕は待ち人が現れるのを待っていた。


すると、そんな僕の視線の先に、ひとりの少女の姿が目に映る。


白いニットとブラウンのロングスカート。上からベージュのコートを羽織ったその少女は、キョロキョロと辺りを見渡していた。


そして、彼女の視線が僕のほうへと向くと、先ほどまでの不安そうな表情がみるみるうちに柔らかくなり、駆け足でこちらに近づいてくる。


「お、お待たせっ! ゆずるくん!」


彼女は胸に手を当てながら、紅潮した頬でにっこりと笑顔を浮かべた。


「うん、おはよう、逢月あいつきさん」


そんな彼女に対して、僕も笑顔で挨拶の言葉を交わす。


「ごめんね、ゆずるくん。外で待ってるの、寒かったよね?」


逢月あいつきさんが申し訳なさそうに視線を落としながら、そう言ってきた。


「大丈夫だよ、僕も来たばっかりだから。逢月あいつきさんのほうこそ、寒くなかったかな?」

「わ、わたしは大丈夫だよ! さ、寒いのは得意だから!」

「へえ、そうなんだ。凄いね、逢月あいつきさんは」

「す、凄くなんてないよ! シロクマだって寒いのは得意だよっ!」


今度は慌てたように両手を自分の前で振って答える逢月あいつきさん。

なぜ、シロクマと比較なんてしたのか……なんて、そんな野暮なことは聞くまい。


何故なら、恥ずかしそうに手を振るその仕草が最高に可愛いからだ。

それだけで、僕の心はぽっかぽかだ。

この温かさを、是非とも南極にいるシロクマたちにも届けてあげたい。


あれ? でもシロクマがいるのって北極圏だったっけ?

まあ、なんでもいいや。


「そ、それじゃあ、ゆずるくん。映画館、いこっか」


しかし、すっかり元の調子に落ち着いた逢月あいつきさんは、今日の目的地を目指して歩き出す。僕はそんな逢月あいつきさんの隣に並んで歩き……。


そして、自然な流れのまま、僕は逢月あいつきさんの手を握った。


「……っ!」


逢月あいつきさんは一瞬だけ驚いた顔を浮かべたものの、僕に表情を見られないようになのか、少し俯いた状態のまま、手を握り返してくれた。



彼女の名前は、逢月あいつきみう。

彼女は僕、宮守みやもりゆずるにとっての、世界一可愛い大切な恋人だ。



お付き合いを始めてから、まだ一ヶ月そこらしか経ってはいないけれど、こうして週末にデートへ行くことが、今の僕にとっては何よりも幸せな時間なのである。


だから、今日も素敵な1日がこれから始まることに――


『速報です! ただいま緊急速報が入ってきましたっ!!』


しかし、そんな僕の気分を裏切るように、緊迫した女性の声が街の大型ビジョンを通して周囲に響き渡る。


『午後1時頃、○○市に『BEAST』が出現しました! 現在、市民たちの避難をおこなっておりますが『BEAST』たちの侵攻は激しく、建物の損害も出ております! 外出中の方は速やかに避難をお願いします! なお、『BEAST』を指揮する魔族は――』


アナウンサーの女性が必死に原稿を読む中、僕たちの周りでも不穏な空気が漂い始める。


「また『BEAST』かよ……。今月で何回目だ?」

「なあ、○○市って隣の市だよな?」

「だよねー。こっわ。あーしたちも襲われたらマジ最悪なんだけど」


各々が不安を口にする中、スマホを確認する者もいれば、一緒にいた人と愚痴を零しあう人もいた。


『BEAST』

それは、およそ10年前、僕たちの世界に現れた異形の怪物モンスターだ。


彼らは知能を持たず、ただただ地上で暴れまわり、僕たちの平和を瓦解させる存在なのである。

普通の人間ならば、まず太刀打ちができない危険な存在で、ましてや中学生の僕たちにできることなんて、みんなと同じように安全な場所へ避難することくらいだ。


「…………ゆずるくん」


しかし、そんな緊迫した状況の中で、僕の手を握っていた手が離れる。


「ごめんなさい! わっ、わたし! ちょっと用事を思い出しちゃった!!」


そう言い残して、逢月さんは近くの建物の中へと消えてしまった。


「…………」


こうして、取り残された僕だったが、彼女を追いかけることもなく、スマホでSNSのアプリを開く。

タイムラインには、おそらく一般の人たちが撮ったであろう『BEAST』たちの姿が映されており、その傍若無人な行為が鮮明に映されていた。


「えー、今回の『BEAST』ってスライムなんだー。かわいー」

「お前、スライム馬鹿にすんなよ? あいつら、けっこー強いんだからな」

「えっ、マジ? なんかぷにぷにしてるだけっしょ?」


しかし、おそらく僕と同じようにSNSでアップされた写真を見た人たちの反応は、実に緊張感のないものだった。

そして、アナウンサーの必死な避難勧告を無視するように、ぞろぞろと人が広場に集まって、みんなで大型ビジョンを眺めている。


まるで今からスポーツの国際試合でも始まるかのような、期待を向けた視線を送る一同。

しかし、これから画面に映し出される人物が、大谷翔平でもなく、三苫薫でもないことを僕は知っている。


『――えっ、えっ? は、はい! 速報! 新しい速報が入ってきました! こちらの映像をご覧ください!』


そして、今までテレビ局のスタジオが映し出されていた画面から、現場の中継映像へと切り替わる。


そこに映っていたのは、街中を徘徊するスライムの集団と……



――空に浮かび上がる、ひとりの魔法少女の姿だった。



白い髪に青色のローブ姿。

そして、その手には三日月を模した長杖が握られている。


『なんと! 『アクアエイル』です! 魔法少女『アクアエイル』が現場に駆けつけてくれました!』


興奮した様子で実況をするアナウンサーの声が流れると、その場にいた観客たちも一斉に声を上げる。

そんな状況を知らないであろう魔法少女、『アクアエイル』は、杖を敵にかざしながら『BEAST』たちに向けて宣告する。


『わ、わたしは魔法少女『アクアエイル』です!』


そんな彼女の呼びかけに、集まったギャラリーの熱気はより一層、肥大化する。



彼女の名前は『魔法少女 アクアエイル』

僕たち人間を『BEAST』から守ってくれる、特別な存在の女の子。

但し、その正体を知る者は、誰もいない……はずだった。


『あっ、あなたたちを今から、魔法の力でやっつけます!!』


だけど、僕だけが知っている。



逢月あいつきみう。

彼女が世界を救う魔法少女であることを――。




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最後までお読みいただき、ありがとうございます!


こちらの作品は2025年12月1日より、毎週、月、水、金の18時頃に最新話を更新予定です!


甘々でドキドキな魔法少女とのラブコメを展開していくつもりなので、何卒よろしくお願い致します!

(少しだけ魔法バトルもあったりなかったりもしますw)


もし、この作品が気に入っていただけましたら、☆やいいね、コメントでの感想など大歓迎です!人気が出れば、書きたい話がたくさんあるので励みになります!

ぜひ、今後とも楽しみにお待ちください!


ひなた 華月

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