第3話 恋と魔法の始まり~愛の告白は突然に~②



「いいじゃん。付き合っちゃいなよ」


そう告げた彼女は、棒つきキャンディーを口に加えながら、僕たち二人をまじまじと見つめる。

身長は160cmほどある僕より少し低いくらいの、ポニーテール姿の女子生徒だ。

そんな突如現れた彼女に、僕は冷静な口調で言った。


天王寺てんのうじさん、図書室では飲食禁止だよ」


というか、校内にお菓子の持ち込みは禁止だったはず。


「それを言うなら、図書室で騒いでるきみたちのほうがよっぽどマナー違反ですー」


む、確かに。それは言えてる。

どうやら彼女――僕たちと同じクラスの天王寺てんのうじてるさんのほうが、一枚上手のようだ。


「だいたい、告白って校舎裏とか人目につかないところでやりなよー。宮守みやもりくんって前から変わった人だと思ってたけど、本当に変わってるんだね」

「て、てるちゃん!」


すると、今度は意外にも逢月あいつきさんが応戦する。


「あ、あのね! 確かに宮守みやもりくんって少し人とは違うところもあるけど……」


あっ、変な人扱いは共通認識なんだ。


「で、でもねっ! すごく優しくて、わたしが図書委員の仕事を急に休んじゃったときもいっぱいフォローしてくれたし、授業休んじゃったときのノートも貸してくれたり……」

「あー、はいはい、わかったわかった。つまり、こういうことでしょ?」


天王寺てんのうじさんは、にやっとした笑みを浮かべて僕に告げる。


「みうも宮守みやもりくんのことが好きってことだよね?」


実にあっさりと、天王寺てんのうじさんは逢月あいつきさんの心の声を代弁するように答える。


「…………ッッ!」


そして、その言葉を聞いた逢月さんは、顔を真っ赤にして頭から湯気を出していた。


「……ええと、ごめん。天王寺てんのうじさん、どういうこと?」

「いや、だからさー。みうもずっと宮守みやもりくんのことが好きだったんだよー。あたしと話しているときも、最近はずっと宮守みやもりくんの話だし。あー、もうこれは恋する乙女ですわー、みたいな?」

「て、てるちゃん! そ、そんなことないよ!」

「いやいや、そんなことあるって。ってことで、宮守みやもりくん」

「は、はい」

「うちのみうを、どうかよろしくお願いします」


ぺこり、と僕に頭を下げる天王寺てんのうじさん。


「あ、いえ、こちらこそ」


なので、僕も彼女に習って席を立ちお辞儀をする。


「え、えええええっ!?」


そして、当の本人は置いてけぼりにされて、慌てふためく逢月あいつきさん。


「はい! というわけで、晴れておふたりは、あたし公認の恋人同士でーす! 今日から存分にイチャイチャしてくださーい!」


パチパチパチ~、と僕たちに祝福の拍手を送る天王寺さんだったが、あまりの急展開に、逢月あいつきさんは全くついていけてない様子だった。


まあ、それは僕も同じな訳なのだが……。


「ねえ、逢月あいつきさん」

「はっ、はい!」


どうしても、彼女に確認をしておかなければいけないことがある。


「僕のことが好きっていうのは、本当なの?」


一瞬、彼女の身体がびくんっ、と震える。

だが、彼女は精一杯の勇気を振り絞ったような声で答える。



「……………………うん。好き……だよ」



その一言だけで、僕の体温も急激に上昇する。


そうか、良かった。

僕はちゃんと、逢月あいつきさんに好きになってもらえるような人間になれていたのだ。


「ひゅー。早速見せつけちゃってくれてんじゃん! いいねいいね、おふたりさん、その調子だよー」

「も、もう! 意地悪しないでよ、てるちゃん!」


異議を唱える逢月さんに対しても、いつものように軽くあしらう天王寺てんのうじさん。

相変わらず仲良しだな、と思いつつ、僕は彼女に尋ねる。


「ねえ、天王寺てんのうじさん。図書室に来たってことは、逢月あいつきさんに用事があったんじゃない?」

「あっ、そうだった」


やはり、天王寺さんの来訪は逢月あいつきさんに会うことが目的だったらしい。


「ごめん、宮守みやもりくん。せっかく告白に成功したところ悪いんだけど、ちょっとみうを借りてもいいかな?」

「もちろん、大丈夫だよ。本を借りに来る人もいないだろうから、しばらくはひとりで大丈夫だと思うし」

「ありがと。じゃあ、みう。ちょっと来て」

「う、うん……」


そう言って、天王寺てんのうじさんと逢月あいつきさんは図書室から出ていった。

それを見送った僕は、ひとまず人生の一大イベントを終わらせた安堵感からか、大きく息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかる。

本当に、僕は彼女の恋人になれたんだ。



「(……はぁ。自惚れおって。たかが契りを交わすことになんの意味があるんじゃ)」



しかし、そんな僕の幸福感を邪魔する声が脳内に響く。


「……うるさいな。僕にとっては大事なことなんだよ」

「(ふん。まあ、良いわ。それより、あの娘を行かせて良かったのか?)」

「良かったも何も、僕に邪魔する権利はないよ」

「(なら、あの小娘ふたりが何を話しているのか聞いておけ。今後の役に立つかもしれん)」

「嫌だよ。そんな盗み聞きをするような真似はしたくない」

「(勘違いするなよ、ユズル。これは命令じゃ。やらないというなら、今すぐお主との契約を破棄しても良いのじゃぞ?)」

「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば」


仕方ない。あまり気乗りはしないが、今ここで揉めて機嫌を損ねられるほうが面倒くさい。

僕は窓から見える景色を見つつ、目ぼしい標的を見つける。

そして、校庭の木の影に1匹、カラスが止まっていることを確認する。


「あの子でいいかな」


僕は右手の親指と人差し指を使ってOKサインを作り、その『〇』の中にカラスが収まったのを確認して、覗き込む。


「ごめんね」


そして、謝罪の言葉を述べたのち、僕は『意識』を集中させる。


「きみの身体、少しだけ借りるよ」


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