一章 世界には線があると彼女は思っている

第1話 隣の席の和田さんは元気がない


 雨音高等学校二年一組。

 まだ一月ほどにもなっていないので、通い慣れたとはとても言えないけれど、 朝教室に入ると、いつもよりも教室の空気が淀んでいる気がした。


(……?)


 少し辺りを見渡しても、少なくとも僕に対しての何かがあるわけではないことは確かである。


「柊二、おはよ」


 その証拠に特に注目を浴びることもなく、また、入口近くの席に座っている、中学からの友人の一人である青木あおき裕也ゆうやがいつも通りに声をかけて来る程度にはいつも通りだ。


「裕也、おはよ。……なぁ、今日なんかあったか?」


 なんか空気が、と続けようとして、裕也はあぁ、というようにして僕を呼び寄せるようにして、囁いた。


「よく気づいたな。一応お前が一番空気に当たりそうだから伝えとくと……花怜かれんが例の先輩と別れたんだと。しかも相手の浮気で」


「うわぁ……」


 僕はそんななんとも言えない声を上げて、席の方を見た。

 確かによく見ると、突っ伏している金髪と、その周りに女子が二人いるのは慰めているような気もする。


 和田わだ花怜かれん


 目を引く鮮やかな金髪に、今は俯いて見えない小さな顔には、整ったパーツが配置されており、大きな瞳によく笑う口元は魅力的な少女だ。

 スタイルもよく、手足は細身で長く、スカートから覗く足は白くて男子高校生には眩しい。偶に友達と話しながらこちらの方向に向けられたときなどは、一瞬目が奪われてしまいそうになって逸らす努力がいるほどだ。


 ちなみに、村山むらやま柊二しゅうじという名前の僕とは出席番号という縁により隣同士の席の関係である。まぁ、それ以外の関係はないともいうが。


「あいつからの情報だからデマでもねぇし。お前なら言いふらすこともないだろうけど」


「うん、まぁ休み時間とかは、僕の席が使われてもそういうことかなと思っとく」


 裕也の言葉に、なるほどと僕は頷いてそう言った。

 あいつ、と顔で指し示したのは、裕也の中学からの恋人でもある笹崎ささざきひとみ

 そして、今まさに僕の席に陣取って和田さんを慰めているうちの一人である。


 僕とも、同じ中学であることと友人の彼女という点からもそれなりに会話を交わす女子でもあるが、先に事情を知らせてくれたおかげで、朝から変に気まずい思いをしなくて済んだ。

 裕也には感謝である。


「じゃ、始業のチャイムなるまでここにいよっかな」


「……柊二のそういうとこ、俺は好きだぜ」


「男に好かれてもなぁ」


「お前は割と誰にでも好かれるたちだろ」


 裕也がそう言って笑うが、まぁ目立たず、嫌われることをしていないから敵もいないというだけだ。

 それにしても。


「でも意外と言えば意外だね」


「うん?」


「いや、偏見で話すけど、何だか失恋でそこまで落ち込むタイプじゃないのかなと思ってた。浮気は最悪だとは思うけど、もっと落ちるより怒る方というか」


 僕の言葉を選んで選んで失敗しました、みたいなセリフに、裕也は少し苦笑して言った。


「そうか、お前別に花怜かれんと絡まねぇもんな」


 ちなみに、この友人は、帰宅部趣味優先の僕とはちがって、いわゆるコミュニケーション強者で、何ならテニス部の次期キャプテンと称されている男である。

 何なら身長も結構高く、それでいて成績も良いという、本当にカーストなんてものがあったら上位に位置するような男子生徒だ。


「まぁ、和田さん自体は明るいから会話したことくらいはあるけど、友達とはとても呼べないかな?」


 目立つ女の子だから名前を知ってはいる。一年生のときは違うクラスだったから人となりまでは知らない。後は、クラスLINEでアカウントは知っているけれど、友達を追加、は押したことがない。

 そんな関係だ。


「見た目ギャルっぽいから勘違いされやすいけど、あれで初めての恋人だって話だぜ」


「そうなの?」


「あぁ、ってかその顔とセリフでお前が花怜に興味ないことがよく分かるな。ファン層、ってかあわよくばあいつの彼氏になりたいって男子の中だとそれなりに有名だぜ」


 そこもいいとこだけどな、と随分と朝から褒め殺してくる裕也だが。なるほど、確かに僕はそのへんの事情には疎い。

 そして、偏見だったらしいことを心の中で和田さんに謝罪しておく。


「そっか、それじゃあ凹むのも仕方ないね」


「あぁ、それにまぁ瞳曰く少し理想もあったらしくてな。それが短期間で破局だからと、昨日の夜どう慰めたら良いかなと相談だったんだわ」


「まぁ、裕也たちは仲良くて何よりだよ。慰めに効果的かはちょっと疑問だけど」


「……まぁなぁ」


 後半にさらっと彼女と夜に電話して仲が良いのも示されて、それはそれで慰めにくそうだなぁと思う僕の言葉に、少し気まずげな裕也。


「まぁ別に友達が失恋したからと自分たちの幸せに気後れする必要はないと思うのだけど」


「全員がお前みたいだったら世界は平和なんだけどなぁ」


 そして、そんな会話をしている間に、チャイムと共にそれぞれ席に戻り始めて、僕もようやく自分の席に向かった。

 瞳がそんな僕に気づいていたのだろう、すれ違いざまに両手を合わせるのに、手だけで問題ないと返して着席して、横目に和田さんを見る。


(確かに元気なさそうだなぁ。どうしようもないけど)


 そんなことを思いながらも、まぁ同じクラスの隣同士でも、知らない相手に同情されるのも嫌だよねと、気にしないでホームルームに備えて鞄から筆記用具を取り出した。


 ただそれだけ。

 本来の僕達は、それだけの関わりのはずだった。
















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ご無沙汰しております、和尚です。

カクヨムコンの騒ぎに釣られ、高校生の一対一の純愛ラブコメを書き始めてみました。年の瀬も近づいてきますが、更新頑張っていこうと思います。

良ければフォローやいいね、⭐︎評価などしていただけたらただただ嬉しいです。

では、また完結までお楽しみいただけますように。

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