百合な赤ずきん

OROCHI@PLEC

百合な赤ずきん

 昔々ある村で、可愛らしい美少女とそのお母さんが暮らしていました。

 少女のお父さんは、赤ずきんが産まれた頃に病で亡くなっていて、お母さんは一人で少女を育てていました。


 少女は、そんなお父さんが恋しいのか、お父さんの形見である赤いずきんをいつも被っています。

 そのため、少女は赤ずきんと呼ばれていました。


 母親思いの赤ずきんと、優しくたくましいお母さんは、二人仲良く幸せに日々の生活を送っていました。


 ある日、お母さんは赤ずきんに言いました。


「赤ずきん、申し訳ないんだけど私の従兄弟にこの贈り物を届けてくれない? 今お母さん手が離せなくて」


「良いよお母さん。どこにお母さんの従姉妹の家はあるの?」


「家の前の道を右に曲がって、そのまま真っ直ぐ行ったところよ。くれぐれも、寄り道だけはしないでね。 じゃあお願いできる?」


「うん分かった! じゃあ行ってきます!」


「……気をつけて行ってきてね」


 赤ずきんは右手に贈り物が入ったカゴを持って、元気に家を飛び出して行きました。

 お母さんは赤ずきんが家を出ると、その場に崩れ落ちて涙を溢します。


「ああ、神様どうか無事に娘をお返し下さい。そして娘を送り出してしまった無力な私をお赦しください。魔女からは逃れられないのです」


 お母さんが従姉妹の家だと言って赤ずきんを送り出したのは、他でもない、とても恐ろしい魔女の家だったのです。

 カゴの中身は、魔女への捧げ物でした。


 魔女がこの村にやって来たのは数年前、村が干ばつで苦しんでいるときでした。

 魔女はやってくるなり村長のところに行き、こう言いました。


「もし、これからずっと私に一年に一回、食い物や酒などを捧げてくれるのであれば、私は今すぐにでもこの村に雨を降らし、この先私がいる限り干ばつが起こらないことも保障しよう。さて、どうするかい?」


 苦しい生活を送っている村民を見ていた村長は、その要求を飲むしかありませんでした。

 そうして魔女は雨を降らし、村の隅に家を建てて住み始めました。

 それ以降干ばつは起こっていません。


 この出来事以降、魔女に干ばつから村を守ってもらい、また怒りを買って村を滅ぼされないように、毎年村では食べ物や嗜好品などの捧げ物をしてきました。

 今年は赤ずきんの家の番だったのです。

 ただ魔女の家に捧げ物を持って行って渡すだけなのですが、赤ずきんにとっては不幸なことに、今まで無事で魔女の家から戻ってきた人はいませんでした。


 赤ずきんはそんなことはつゆ知らず、スキップをしながら道を進んでいくます。

 赤ずきんはお母さんの言いつけ通り、寄り道をしなかったのであっという間に魔女の家へと着きました。


 魔女の家は真っ白な少し年季のはいっている漆喰と木でできた家でした。

 赤ずきんはよく手入れされた赤い扉をノックします。


「誰?」


 家の中から鈴を思わせるような澄んだ声が聞こえました。


「赤ずきんです! お母さんに頼まれて贈り物を持ってきました!」


「ああ、お母さんから話は聞いているわ。申し訳ないけど、今寝起きでベッドから起き上がれないから私のところまでそれ持ってきてくれる?鍵はもう開いてるから」


 そう言う声が聞こえると扉は音もなく開きました。

 赤ずきんは空いた隙間から中へと入りました。


 中は普通の家とほとんど同じでした。

 違いは、しいて言うなら普通の家と比べて少し良い調度品が使われていたことぐらいでしょうか。


 そんな中、部屋の端にあるふかふかそうなキングサイズのベッドには、上半身を起こした状態の、まるで薔薇のような、妖精のような女性がいました。

 彼女こそが魔女です。


「いらっしゃい、赤ずきん。歩いてきて疲れたでしょ。こっちに来て、椅子に座って休んで」


 そう言って魔女は赤ずきんをベッドの隣にある椅子を指して手招きします。

 とても疲れていた赤ずきんは、その言葉に甘えて、椅子へと向かいました。


 赤ずきんは椅子に座り、贈り物を床に置いて一息ついて魔女を見ると思わず見惚れてしまいました。


 魔女は唇は桜色で、目はぱっちりとしていて大きく、肌や指もは陶器のように真っ白で髪は夜空のように真っ暗で艶があり、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉がぴったり当てはまりました。


 見惚れた赤ずきんは思わず尋ねます。


「お姉さん、どうしてお姉さんは目がそんなに大きいの」


 魔女は答えます。


「それは可愛らしい赤ずきんをよく見るためよ」


 更に赤ずきんは続けます。


「お姉さん、どうしてお姉さんは髪が黒くて艶があって美しいの?」


「赤ずきんに綺麗だなって思ってもらうためよ」


「お姉さん、どうしてお姉さんからはバラのお花のいい匂いがするの?」


「赤ずきんにもっと私に近づいてもらうためよ」


「お姉さん、どうしてお姉さんにそんなに指は白くて細くて綺麗なの?」


「赤ずきんの頭を撫でるためよ」


 そう言うと魔女は華奢な腕を赤ずきんの方に伸ばし、ずきんを下げて頭を撫でます。

 魔女が手を左右に動かすたびに、赤ずきんのサラサラの茶色の髪はゆらりと揺れ、赤ずきんは気持ち良さそうに目を細めます。

 口元には幸せそうな笑みが浮かんでいました。


 天使のような赤ずきんの顔が、幸せに蕩ける光景は、天国だったと言っても過言ではないでしょう。


 目がトロンとした赤ずきんは最後に問いました。


「お姉さん、どうしてお姉さんのベッドはそんなに大きいの?」


「それはね、あなたと一緒に添い寝するためよ。おいで赤ずきん。疲れたでしょ、一緒に寝ましょ」


 とろんとした赤ずきんは疑問を覚えることもなく、ふかふかの大きいベットに潜り込みます。

 同じように魔女も寝っ転がり、自然と見つめ会う体勢になります。


 赤ずきんは魔女の目に魅入られます。

 魔女の目は紺色でサファイアのように美しく、不思議とその目はうっすらと光を放っていました。


 魔女はその様子を見て微笑みます。


「私にこの目があるのは、可愛いあなたを眺めて、見つめ合うためよ。おやすみ、赤ずきん」


 その言葉を聞くと赤ずきんはとても眠くなり、そっと目を閉じました。


 それから少しすると、赤ずきんから静かな寝息が聞こえてきました。

 ふわりとしたまつ毛が寝息にあわせて揺れています。


 魔女はそんな赤ずきんの頬にそっと手を当てます。


「赤ずきん、あなたは妖精みたいに可愛いわね。ほんと、食べちゃいたいぐらい」


 魔女は長い黒髪をかき上げて赤ずきんに顔を近づけてそっと唇を重ねます。


「……唇貰っちゃった」


 そう言って妖艶に笑う魔女は、赤ずきんとはまた違う、大人な美しさがありました。

 赤ずきんはキスされたこともつゆ知らず、微かな笑みを浮かべながら幸せそうに眠っています。


「……私も赤ずきん見てたら眠くなっちゃった。」


 そう呟いて、魔女は赤ずきんにゆっくりと手を伸ばし、優しく抱きしめます。

 魔女に、赤ずきんの少し高めの体温と柔らかさ、トクトク動く心臓の鼓動が伝わります。

 赤ずきんからは、ヤグルマギクの香りがしました。


「おやすみ、赤ずきん」


 魔女はまぶたを閉じました。

 二人は、甘く幸せな夢へと、ゆっくり、落ちていきました。


 ちょうどその頃、魔女の家に一人の男が向かっていました。

 彼はを行なっている狩人でした。

 今回、村の人々に捧げ物を強要している魔女がいると聞いてやって来たのです。


 狩人は魔女の家の前に着くと、辺りを探ります。

 窓を見つけました。

 狩人はそっと窓から中を覗き込みます。


 その瞬間狩人から血が噴き出しました。

 そして苦しそうに胸を押さえて喘ぎます。


 ……え? どこから血を噴き出したって?

 鼻からです。


 狩人が見たのは、薔薇のような美女と天使のような美少女が二人で抱き合って眠っている光景でした。

 そこに太陽の優しい光が差し込んで二人を暖かく照らしている景色は、天国と見間違えるほどです。


 そんな光景を直視した狩人が鼻血を出すのも仕方のないことです。

 彼は百合好きなのですから。

 狩人の名は「魔女狩り人」、またの名を「腐男子」と言いました。


 狩人は目的も忘れて、思わず見惚れます。

 目は大きく見開かれていました。


 それからしばらく時間が経ち、我に返った狩人は思いました。

(良いものを見させてもらった。よし、帰ろう)と。


 そして、ドライアイになった狩人は魔女を狩るのを忘れて帰っていきました。


 おしまい。


 この後どうなるのかは、皆さんの想像次第です。

 赤ずきんは魔女に襲われてしまうのかもしれませんし、何もされずに無事に帰れるのかもしれません。


 ちなみに、これはナレーターの独り言なのですが、魔女の家から武力でボコボコにされて無事に帰れなかったのは、魔女を襲おうとした不届き者たちらしいです。


 ……そういえば、唇を奪われて帰宅するのは、無事に帰ったことになるのでしょうか?


 まあ、私は「今まで魔女の家から戻ってきた人はいませんでした」としか言っていませんから。


 答えは神のみぞ知る。


 というわけで、

 めでたし、めでたし。



















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