第2話 先生




 いつも通りの職員室に廊下、いつもの学校だ。

 ただ一点を除けば。


「だからだめだ!少なくとも僕からは許可ができない」

 廊下にまで怒号が響き渡り、生徒たちがビクッと驚いた。

 声を荒げているのはこの学校の教師、能見のうみ鷹央たかおだ。

 いつも穏やかでにこにこしている、ただ目元には常にくまがあり、その悲哀そうな雰囲気も女子人気を高めていたのだった。


 生徒に叱るときでさえ声を荒げず、ただ諭すだけ。

 ふたりも能見が怒鳴るとこは見たことがなかった。


 玲と新名は締め出されたように職員室を追われる。

 ふたりは首をかしげるだけだった。


「ねぇ、能見センセってあんなキャラだっけ?」

 と新名は不思議そうに呟く。

「少し違いましたよね......とはいえ、廃墟とかの探索は教師の立場からは勧められなかったのだと思います......きっと」

 玲もどこか言い訳めいたセリフを発する。

 彼女でさえ、能見の豹変ぶりに驚いていたのだ。


「行くにしろ行かないにしろ調べてみない?手持ち無沙汰だし」

 新名の発案が決め手となり、廃屋について調べることとなったのだ。

 あの山と廃屋には意外にも歴史が長く、オカルト研究会の資料だけではなかった。



「このくらいでいいんじゃない?十分でしょ」

 ドンッと図書館や部室から運び出した資料を机に置いた。

 地元にしか出回らない個人出典のものや、大垣山の成り立ちなど様々な内容が記されていた。


「私はこの二冊が重要だと思うわ。明らかに記述が違うもの」

 そう言って玲はふたつ冊子を手に取った。

 そこにはオカルト研究会と大きく書かれていたのだった。


「どういうことなの?」

「この最初の本以前はね、大垣山自体は肝試しの場所として有名だったわ。けど幽霊とかの目撃はなかったらしいの」

「なんか意外だね」


 けど、と玲は話を一回切った。

 軽く咳払いをして話し始めたとき、玲の声はいつもよりずっと低くおどろおどろしく聞こえた。


「二冊目の本、十年ほど前からだと思うんだけど......聞き込みにも体験談にも少女の霊、が追加されてた」

 はっ、と新名は息を飲む。

 その後も玲は続ける。

 そこからさらに心霊スポットとして有名になった、と。

 しかし特に危害も起きなかったからか、少しずつ廃れていったそうだ。


「以上だわ。これ以上は真偽不明と言ったところでしょう」

 そう言って玲は話を締めくくる。

 話を聞き入っていた新名はようやく現実に戻ってきた。


「ありがと、私からはあんまり無いかな。でもそれくらいの時の新聞が一年分くらい抜けていたんだよね」

 そう言うと玲は眉間に手を当て、考え始めた。

 数秒ほどその状態が続き、ふたりの間には冷風だけが通り抜けていった。


「分からない。なにかしら関係がありそうなのだけど......根拠のない推理はただの妄言、下手に推測するのは止めておくわ」

「そ、そっか。」

 がくっと崩れ落ちた新名はなんとか持ち直す。

 玲は分からないことは分からないとはっきりと言う。

 ただ、真面目そうな顔をして言うので周りの人はがっくりとくるのだ。


「そうしたら明日にしましょう。持ち物はこちらで用意しますから動きやすい格好でお願いしますよ」

 明日は土曜日、休日だからこそ自由に使える時間が長いのだ。

 のりのりの玲に若干引いている新名。


 二人は手を繋ぎ、帰路につく。

 金曜の街には活気が溢れていた。



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