第1話 オカ研
窓から差す橙色の陽は埃が積もった背表紙を照らす。
長い間、誰の手にも取られていなかったのか段ボールに積み重なっていた。
ただ、背表紙の文字だけは金色に輝き、オカルト研究会という文字をこれでもかというほど際立たせていた。
長い黒髪をストレートに垂らしたどこか整然とした少女は、埃を被った冊子を手に取り、軽く手で掃く。
しかし、それでは不十分だったようで開くと軽く咳をしてしまった。
「コホっ、コホっ。やっぱり、埃が被っていますわ」
と、目を細めながら言ったのは
「ね、やっぱりサボるには最適でしょ」
新名も玲とは違うタイプではあるが、顔が整っている。
地毛の茶髪はショートにカットされ、切れ目ということもあり猫のような雰囲気を醸し出していた。
「でも、駄目ですの。部員が足りていないからかキチンと活動しないとすぐにも廃部になってしまいます」
億劫そうにため息を吐きながら玲が言う。
もともと部活動が強制のこの学校で極力活動したくない新名と、家柄からかオカルトに興味があった玲がお互いの希望に沿って選んだのがオカ研だ。
だが……いかんせん部員が足りず、入部三カ月にして活動する必要が出てきた。
部員を誘うのもこの時期になるとほとんどの生徒はそれぞれの部活に入り、気軽には誘うことはできない。
「えー、やりたくないよ……」
どちらかというと乗り気な玲と違い、新名は憂鬱そうに机に突っ伏したのだった。
「新名さん……」
「分かってるよ……楽なの何か無いの?」
「一番楽なのはですね……」
玲は軽く目を閉じ、うーんと唸りながら顎に手を当て夢想する。文化部でも芸術系ではないので目に見えて分かりやすい形でないといけないのだ。
「冊子、ですかね。卒業生の方々が作成されたものと同じように逸話と現地の写真を添えるのみ、で作れますので」
そう言いながらパラパラと冊子をめくる。
その所作はどこが洗礼されていて美しさすら感じた。
「ホントに玲は丁寧だわ」
対照的に新名は片手で流し読みを続けていた。
ただ、乱雑ながらも冊子に折り目も付いていたなかった。
「ん、これとかどう?」
書かれていたのは【大垣山の廃屋】。
いかにもなおどろおどろしいフォントと共に薄暗い部屋の一角が描かれていた。
「良いちょいす、ですわね。こちらの冊子にも書かれているのを見ますに毎年の恒例だったのでしょう」
チョイスの部分だけ明らかに日本語の言い方だった。良家出身でもあり、成績も優秀な玲の唯一出来ない事は英語だ。
別に英語が出来ないのではなく、ただ発音だけが苦手なのだ。いわゆる横文字NGというやつである。
「でも、やっぱり面倒くさいなぁ……」
再び机に顔をうずめた。
ある意味、猫のように気まぐれな性格の新名は常に面倒臭がりであった。
「新名さん」
玲の呼び声に応じて顔を上げる。
その刹那、柔らかい感触が新名の頬を襲った。
「うっ、え?」
突然、頬に暖かいものを得た新名は驚きの声を上げる。
それに対して玲はにこにこと微笑むだけ。
「言うこと聞かない新名さんにはこうですよ」
そう言って新名の唇に指を当てる玲。
新名と玲が知り合ったのは二人が中学生の頃からだ。
相性が良かったのかすぐに親しくなり、中学の卒業を皮切りに恋仲となった。
意外にも新名から告白しているのだが、今となっては玲のほうも熱を上げていた。
「れ、玲!いきなりはだめだっていったじゃん」
「ふふ、やっぱり可愛いですね!」
「うー」
悔しげに唸る新名に玲は微笑む。
スキンシップが多い玲に照れる新名、いつもの光景だった。
「わ、分かったよ!行きます」
照れ隠しをするように大声で返答をした。
玲はしてやったりという顔で笑っている。
「そうね、そうしたら......顧問の先生にも報告に行きましょうか」
「あのイケメンの先生ね......女子人気高いよねー」
ふたりは手を繋ぎ、部屋を出る。
玲は堂々と、新名は恥ずかしながら歩き出したのだった。
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