究極依存SNSアプリ

ちびまるフォイ

エターナルアプリ

株式会社ダメダメカンパニーは窮地に立たされていた。


「社長、このままヒット作をリリースできないと

 うちの会社はおしまいですよ」


「ぐぬ……。そんなことはとっくにわかっている!」


「次はどんなアプリを作るんですか?

 次コケたらもうおしまいですよ」


「……SNSを作る」


「社長、正気ですか!?

 SNSのアプリなんてもう出揃ってます。

 新しくアプリを作っても遅いですよ!」


「いいや、そうは思っとらん。

 なぜなら我が社が作るのは他のSNSとは大きく違う」


「なにがです? どこを差別化するんです?」


「SNS中毒におちいる要素を全部ぶちこんで、

 最凶の依存SNSを作るぞ!!!」


社長のトチ狂った提案でも、

明日の食いぶちすら危ぶまれるため断ることもできなかった。


「社長、それで最凶の中毒SNSアプリを作るということですが」


「ああ」


「具体的になにを入れるんですか?」


「それはもう依存する要素すべてを入れる。

 たとえば、オススメ機能なんかは絶対入れる」


「それで依存しますか?」


「ふっふっふ。このアプリはスマホに含まれている

 すべてのバックグラウンドのデータを抜き取るようにする」


「え! それじゃ検索履歴から、撮影した写真までも

 アプリに解析されるってことですか!?」


「そうとも。それをAIに読み込ませて、

 使用者の好みに最適化した内容をアプリの画面に表示させる」


「それじゃ利用者は……」


「そう。"自分の見たいものだけ"が広がる世界の完成だ!!」


「それはすごい……ですが、それだけで依存しますかね?」



「もちろんコレだけじゃないさ。

 他にも"スクロールするだけで報酬"機能もつけよう」


「スクロールする……だけで?」


「依存SNSでスクロールするだけでアバターが進化する。

 報酬がもらえれば人間はバカみたいに遊んでくれるからな。

 徐々に滞在時間を伸ばして中毒にさせてゆく」


「なんてあくどい……だが、納得できます……!」


「さらに! アプリを開いてない間でも、

 アプリを開くきっかけを作るようにしてやるのさ!」


社長はますます悪い顔になってゆく。


「カメラを起動しても、充電をしているときも。

 それをアプリが検知して、アプリを強制起動させてやるのさ。

 

 最初の画面は利用者に最適化されているから、

 うっかりひとつの投稿を見ようものなら数時間を溶かすことができる!」


「まちがいないですね!」


「お前もわかってきたじゃないか」


「ただ社長、ひとつだけ課題があります」


「なんだと?」


社長は眉をひそめた。


「たしかに社長の案をすべてぶちこんだアプリは、

 利用者が依存する要素が盛り沢山です。

 でもSNSには自分から投稿しない人もいます。

 その人達はどうやって依存させるんですか?」


「スマホのデータをなんでも抜き取るといっただろう?」


社長は得意げな顔をした。


「なんと、私の開発するSNSは自動投稿機能もつける!

 アカウントを作って投稿しない人でも、

 勝手にAIがアカウントに即してバズりやすい形で投稿してくれる!」


「そこになんの意味が……?」


「AIが投降する内容で人気が出たなら、

 本来の人間がどれだけSNSへたっぴでも人気者になれるわけだ」


「なるほど! 承認欲求という甘い蜜を吸わせるわけですね!」


「極めつけは、アプリを閉じたら死亡演出を挟むようにする」


「死亡……演出?」


「アプリを閉じたら自分のアバターが死んで、

 これまでの評価がロストする仕組みにしよう。

 そうすれば気の毒さでアプリを辞めるに辞められなくなる!」


「さすが社長!!」


利用者へのモラルや配慮の一切を排除。

その代わり、SNS利用者がいかにハマりやすいかに特化した。

中身はスッカスカでも依存させれば問題ない。


「では社長、さっそくアプリの開発指示をしますね!」


「ああ、完成が楽しみだ!!」


かくして現代の人間を骨抜きにする究極悪魔SNSの開発がはじまった。


人間心理を分析して、どうすれば依存させられるか。

AIアルゴリズムを最適化して、人間がハマり混む構造を構築。


音、光、演出、時間、頻度。


あらゆるものが計算され解析されてゆく。

文明を得た人間を、スマホを操るだけの猿に還元するほどの強力なアプリを。


開発から数ヶ月が経過した。

ついにリリースの期日を迎える。


「長かったな。ついに今日が完成日か」


「それが……」


「なんだ言い淀んで。なにか問題でも?」


「ええ、まあ」


「言ってみろ。どうせリリース延長とかだろう?

 アプリの開発にはよくある。何日だ? 何ヶ月だ?」


「そうではなく……」


社員はそっと最後に告げた。



「あまりに依存性が強すぎて……。

 開発しているスタッフが全てSNS中毒になってしまいました」



社長が現場に入るとそこは開発中のアプリに夢中のスタッフ。

彼らはひとり残らず、もう仕事を続けられないほど熱中していた。



「効果てきめん……ですね……」



気まずそうに笑う社員。

アプリは一生開発を終えることはなかった。

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