第16話 サーバー室の邂逅
ナツ先生の設計図通り、レイアはすぐにターゲットとなるメインサーバーを見つけた。 データ保存機をポートに差し込む。
保存機の端にある赤いランプが点滅し始めた。 ターゲットの検索と処理が始まった合図だ。
レイアは焦りながら待った。 時折、入り口の方を振り返る。
周囲に林立する白いサーバーの列は、無言の圧力を放ち、彼女を押しつぶそうとしているようだった。
その時、背後から足音がした。 一直線に並ぶサーバーの間で、レイアは立ち尽くした。 隠れる場所なんてない。
「誰?」
不審そうな女性の声。 社員証を下げた女性スタッフが、レイアの胸にある「見学者」のパスを見て眉をひそめた。
「どうしてここに入れたの?」
「わ、私……」
レイアは後ずさりし、背後のサーバーに差し込まれたままの保存機を隠そうとした。 赤いランプが、白い空間で不吉に点滅している。
「あら、それは何?」
女性スタッフが一歩踏み出す。
まずい、バレる! レイアはこれまでの人生で一番の冷や汗をかいた。 足の指先まで強張って動けない。
突然、一人の人影がレイアと女性スタッフの間に割って入った。
女性スタッフはその人物を見て、ハッと息を飲み、態度を一変させた。 反射的に髪を整え、恭しく頭を下げる。
「ロ、ロイ殿下! このような場所にどうなさいましたか?」
華やかな正装に身を包んだリトル・プリンスが、微笑みながら女性を見つめていた。
ただ立っているだけで、人を平伏させるオーラ。 これが王族というものか。 たとえ少年の姿であっても。
王子は落ち着いた声で言った。
「彼女は僕の連れなのですが、どうやらお手洗いを探して迷ってしまったようです」
「そ、そうでしたか!」
「確かに、このビルの女性用トイレは分かりにくい場所にありまして……エンジニアばかりの会社なもので、女性への配慮が足りなくて……」
王子の至近距離からの直視を受け、女性スタッフは舞い上がってしどろもどろになっている。
その気持ちはよく分かる。 レイアもかつて、同じ目に遭ったからだ。
会話の隙を突いて、王子は体をひねった。 背後にあるサーバーから――すでに青色(完了)に変わっていた――保存機を素早く引き抜き、自分のポケットに滑り込ませた。
その手際の良さに、レイアは目を見張った。
女性スタッフは何度か深呼吸をして、ようやく意味のある言葉を紡ぎ出した。
「あの、私、一番近いお手洗いまでご案内します!」
王子は振り返り、レイアにウインクした。
「行ってらっしゃい。親切なお姉さんが案内してくれるそうですよ」
サーバー室の外で待ちくたびれていたLKは、レイアが出てこないので突入しようとした矢先、彼女が女性スタッフと談笑しながら歩いてくるのを見て、目を丸くした。
『上手くいったのか?』
「うん」
『ブツは?』
「……持っていかれた」 レイアは小声で答えた。
LKはリュックの中の黒猫そっくりの顔で、目を剥いた。
『駐車場に来い』
二人の脳内に同時に響いたのは、王子の護衛隊長、カイの声だった。 レベル8以上の高位能力者でなければ、これほどの広範囲に脳波を送ることはできない。
「ああ、ブツを持っていったのは、あの人たちよ」 レイアが補足した。
LKが歯ぎしりする音が、レイアにははっきりと聞こえた。
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