プロフィール小説

このめづき

「訓戒」(2025年7月14日〜2025年11月26日)

 わたしはどうやら、人を殺してしまったらしい。

 雪でも降りそうな寒い夜。

 直前まで気づかなかったのは死角だったからというのもあるだろうが、やはり一番は遅刻してしまいそうで焦っていたからだ。

 咄嗟に目を瞑った。しかし、衝撃はなかった。

 代わりに、何かが潰れるような、世界が終わったのかと錯覚するほどに大きな音がした。

 目を開けると、そこには殆ど原型を留めていない小型車があった。辺りにはガラスの破片が散らばっている。

 わたしは何もしなかったが、周囲はすぐに騒がしくなった。


 運転手は即死だったらしい。


 交通事故では大抵車の側が悪者扱いされるが、わたしが飛び出さなければ運転手は死ななかったのだから、悪いのは、紛れもなくわたしだった。

 その日のうちに、運転手の息子だという中年の男性が、「お前みたいな子どもに責任を取らせるなんて、俺にはできない」と優しく言ってくれた。

 同時に告げられた「だから、今日のことは絶対に忘れないこと。いいな?」という言葉は、今もわたしを縛り付けている。

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