■祖父資料:《地形と林姓についての考察》

(以下、祖父の手稿より抜粋/日付不明)



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◇呉の地形と流血の起源


――呉は海と山に閉じられた盆地である。

海は外の者を運び、山は古き支配者を抱え込む。

境界は常に血を吸った。


海=侵入者

山=地主神

その狭間=血の通り道


呉の血は濃い。

土地はそれを吸い続けてきた。




[祖父書き込み/地図余白]

「軍都として栄えた時期、外道も流入。裏は根深い。

血の歴史は連綿としている。」



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◇古図『林郷(はやしごう)』の痕跡


(墨書の古地図コピーに貼付メモ)


山中に“林郷”と記す場所あり。

開発前より地主神へ生贄を捧ぐ一族が存在したか。

役目を継ぐ者、名を捨て――“林”を名乗る。




別紙メモ。


山を切り開いた代償、血脈を以て支払う。

契約の担い手=林。




[祖父ペン書き]

「造船・軍需拡大・市街の膨張――繁栄期と“林”増加の相関」。


さらに奇妙な走り書き。


神と人、互いを利用す。

犯すのは人。

動機は神。

恐怖が刃を握らせる。

或いは、口実を握らせる。




(※祖父自身の下線)


―構造犯罪。

前近代の契約が、近代の正義を喰っている。




[余白注]

「警察、手を出せぬ理由あり。内部不都合?圧力?

深追い厳禁」



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◇最終頁


※震えた筆跡。乾きムラあり。


男、いや、女、成人、被疑者…?



[欄外鉛筆書き/おそらく祖父自身の判断メモ]

「私が担うな。次を探せ。」


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