第13話 入院23日目 チタンの足とプロテクター②
たとえ器具頼りではあっても、歩けるという事はやはり素晴らしい事だ。
横たわる「ただのしかばね」から徘徊するUNDEADにレベルアップしたような気分。
もう少し頑張ればVampireにでもなれるだろうか。
などとニヤけつつ夜の静まりかえった病棟を、杖を持ちプロテクターを装着した重装備でカシャカシャと歩く。不審者でも徘徊者でもない、これもリハビリセンターより指示された、れっきとしたトレーニング。
職場復帰できるのか不安は大きかった。
しかしこうしてなんとか動けるうちは、まだもう少しだけは頑張ってみようか、という気分にさせてくれる。
ある程度歩いてそれなりの疲労を感じた頃に病室に戻る。人間の神経というのは不便で理不尽にできていて、横になって安静にしている方が痛くて辛い。
動いていない時の方が苦痛が大きいので、一番辛い時間は真夜中から明け方になる。
なので紛らわすために、この機に試してみたのがAmazonのAudibleという本を読み上げてくれるサブスク。以前から無料体験の案内メールが頻繁に来ていたので、入院中に始めて色々聴き倒そうかと申し込んだ。
リストを物色すると、かなりのラインナップが揃っている。暇が出来たら読んでみたいと思っていた本のタイトル達。「国宝」もあるし「ザリガニの鳴くところ」もある。
とりあえず「騎士団長殺し」「海辺のカフカ」等の村上春樹のものをダウンロードして聴き始める。
思った通りだ。
朗読のイイ声、長い情景描写、面白いが静かな展開。
うん、自分で読み進めず耳から入ってくるだけの村上作品は、予想通りよく眠れる。
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