一歩

宵宮 氷河

1歩

――――――――――――ぱんっ――――――――――――



 私は至って普通の人間だ。

 特別勉強やスポーツができるようなこともない。

 私はただの中学生。いつだってそう自分に言い聞かせてきた。

 「牡丹」

その名前に恥じぬよう。

 ただ私には普通ではないことが1つ。幼馴染の理緒だ。理緒は、確かにダメダメだが他にはない優しさがある。男女の幼馴染などまるで青春ドラマのようだが、180度回ってもそんな恋愛ごっこなど起こらない。

 今日も私は隣の席の彼に会う。



 ――――――――――――ぱんっっ――――――――――――


  俺は春人。この際だからはっきり言う。俺は牡丹のことが好きだ。

 もうずっと。頭が回りそう

  でも、もう無理だろう。

  彼女が気づくことはないのだから。


 ―――――――――――――――ぱっ―――――――――――――――

 


  私は理緒と話す時つい自分だけ話しすぎてしまう。でも理緒はこんなんでも優しい眼差しで見てくれる。世間一般的には知らないが、私は理緒をカッコいいと思っている。かも?

「ねぇ、理緒」

 理緒は優しく小首を傾げる。

「みんなはね、、、、、」


 ――――――――――――とーん――――――――――――


 

 彼女はいつだって話している。俗に言うお喋りだ。

 ずっとずっと彼に向かって話を続けている。彼女しか彼に話かけられない。俺になんかちっとも目をくれてはくれない。実に悲しいものだ。軽くおどけてみる。

 いいかげん目を覚ましてほしい。


 ――――――――――――ぱーん――――――――――――

 

 今日も帰る。いつもの帰り道。もちろん理緒も。いつもの踏切の前。

 でも今日は違う。踏切前で理緒が足を止める。

「どうした?理緒、、?」

「           」

 ちょうど電車が通過。生憎何も聞こえなかった。

 理緒にメッセージを送る。

『あとでね』

(おーーーい)



――――――――――――ぽーん―――――――――――――――


 今日も彼女をつい目で追ってしまう。もういい加減行動を起こさないといけないことだってわかっている。取り返しがつかなくなる前に。

 もう取り返しがつかないか。

 そう俺はスマホを持つ。


――――――――――――ひゅう――――――――――――――――


 なんだか視線が痛い。でも、理緒といれるならいいや。

「ねえ、理緒。なんだか吐くみたいだね」

 (おい)


 ――――――――――――ひゅーん――――――――――――――

 彼女は儚い。怖いくらいに。

 でも、もう、、、

 階段を駆け上る。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「理緒!今度こそちゃんと言うね、、、、」

 私は緊張でふらつく足を動かし、理緒のもとに歩み寄る。

 (おい!!!!)

 今すぐあの胸に飛び込みたい。

 (おい!!!止まれ!!!)

 後3歩、2歩、1歩

「おい!!!!待てよ!!!!!」

 頭に響く、うるさい声。思わず足を止め振り返る。

 振り返った先には隣の席の奴、春人がいた。

 彼は呼吸を必死で整えている。

 彼は悲痛な表情を浮かべている。

 彼は私に向かって叫んだ。



「いい加減目を醒ませよ!!もう、もう、理緒はいないんだよ!!!」



 俺はあるだけの力で叫ぶ。

「う、うそ言わないでよ、理緒なら私の目の前にいるよ!!」

「よく見ろよ、牡丹君の目の前は空の上だ。後一歩でも進んだら、落ちる。もう理緒はいないんだよ、、、」

彼女は必死に辺りを見回す。見てるこっちも苦しい。

「思い出せよ、、、理緒は半年前ここから飛び降りて死んだんだよ!!!もう、もうこの世にはいないんだよ」

「でも、でも、メッセージだって返ってきてるよ???」

 彼女は必死でメッセージを探す。あるはずない。彼女のスマホには送信済みのメッセージだけ溢れかえっている。俺は泣きじゃくる彼女をおぶって一歩一歩踏み締めながら階段を降りる。下にいる友達にそっと預ける。

「俺、行くところあるから頼んだ」









「これでいいんだよな?理緒、、、、、」

 俺はそっと1歩を踏み出した。


――――――――――――――どすん――――――――――――――――


 



とてもとても大きな音がしたようだ

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一歩 宵宮 氷河 @Yoimiya

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