終わる世界に思いを寄せて

 卒業を目前にした高校生男女のお話ですが、残りわずかの高校生活を惜しむ場面が展開されると同時に、「終わりゆく世界」という寓話世界の描写が挟まれ、二人の心象が重層的に描かれます。その二つの世界が同じ情景モチーフで結ばれる構造が美しく、寓話世界の終末がちゃんと「痛い」ので、現実世界の二人のセンチメンタリズムに深みを与えています。ふたりは別に恋仲でもなければ、何なら親しい友人というわけでもない。卒業後の進路も重なりません。それでも卒業を控えたこの時に、二人の心情が交差する一瞬を、しっとりと描き出している佳品です。

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