森の魔女

第12話:恨まれる理由

湖に2人で出かけた日から2日経った。

あの後俺たちは必死に家まで帰り、その日はすぐに寝てしまった。

次の日も珍しくエナは一日寝ていて、俺はその間に黒猫と話すことにした。


聞きたいことが沢山あるからな。


「おーい。聞こえてるか?おーい、クロさん」

体の中にいるってことは、この声も聞こえているのだろ。

湖の時も話しかけてきたし・・・


『・・・なんだ』

「やっぱ聞こえるんだな。色々聞きたいことがあるんだけど、今いいか?』

『俺が答えられる範囲ならいいぞ』

答えられる範囲かぁ。色々聞きたいことあるけど・・・


「クロってこの世界で何で嫌われてんの?」

うん。まずはこれだな。

俺が黒猫ってだけで皆怖がるし、殺そうとしてくる…この世界はちょっと異常だよな…


『嫌われている…か。それを説明するのは少し難しいが…俺が世界の人口約半分を1日で殺したから…というところだろうな』

「はぁ!?約半分?!殺した!?!?」

『落ち着け』

いやいやいやいや。落ち着けるかよ。めちゃくちゃ悪い猫じゃねぇか。

そら恨まれて当然だろ・・


『殺してない』


クロが静かに言う。

『俺は殺してない』

俺が信じてないと思ったのか、クロは二度言う。

「・・・そっか。わかった。信じるよ」

こいつは俺と会った時に嘘はつかないって言ってくれた。

実際約束も守って体も返してくれたし、エナも助けてくれた。

この世界に来たばっかりの俺は、まだこの世界について何も知らないけど・・・

こいつが殺してないって言うなら信じようと思う。


『…信じるのか?』

少し声が震えている。今まで信じてもらえず裏切られてきたんだろうか。

俺の返事に驚いているようだ

「嘘はつかないんだろ?俺は信じる。」

クロは『フッ』と笑う。

顔は見えないけど、うれしそうな顔をしているのが想像できる。


「クロが殺してないなら…何でみんなに殺してないって言わなかったんだ?」

『言おうと思った。いや、実際は言ったが、既に取り返しのつかないほどの怒りが俺に向いていた。ウィッチハント協会というやつらが黒猫が犯人だと言ったんだ。まぁ、同時に人口半分を殺せる力があるのは俺くらいだからな。世間も信じたって話だ』

ウィッチハント協会・・・ディーニが言っていたところか。あいつもウィッチハント協会って自分で言ってたよな。多分街で会った兵士も、紫ローブのやつも…


「そんなの・・おかしいだろ。実際にみんなを殺した奴は他にいるのに、やってないクロが殺されて…」

『皆愛する人が殺されたのだ。誰かに怒りをぶつけたくなる気持ちもわかる。人は勝手に崇拝し、違うと思ったらすぐに切り捨てる。・・・弱い生き物だからな』

クロの声が俺には泣いているように聞こえた。

実際は泣いていないと思うが、呆れているようで、どこか悲しんでいるように聞こえる。


「でも、都合よくクロを犯人に仕立てて、出てきたやつらが今の世界を操ってるってなってるとしたら…犯人はウィッチハント協会なのか・・・?」

『俺にもそれはわからない。まぁ奴らの中には強いやつもいたがな』

「強いやつ…。ってか、あんなに強かったら殺される必要なくねぇか?」

ディーニを簡単に殺せる力を持っているクロなら、逃げて殺されるよりも、戦って冤罪を晴らしたほうが早い気がするが・・・・


『俺一人ならな。ウィッチハント協会は黒猫と魔女の仕業だって世間に言ったんだ』

魔女・・・そういえば魔女を探してくれー的なこと言ってたな。

「魔女も・・・殺されたのか・・・?」

『・・あぁ。たくさんの子たちが殺された。魔女の中には強いやつもいるが、ほとんどの魔女は魔女見習いだ。世間から追われ、そのまま火あぶりにされた奴もいる』


そんなの・・・・ひどすぎるだろ。

まだ犯人って証拠も何もないのに、犯人だって決めつけて・・・


『世間のやつらは身近にも魔女が隠れてるんじゃないのか?って疑心暗鬼になってな。今にも戦争が起こりそうな時だった…そのころだったか…俺のところにウィッチハント協会が来たのは・・・。

俺が皆の前で殺されれば、皆の怒りは収まる。罪のない人々が争うこともなくなるって・・・』


他のやつらを守るために・・・・。


『俺が大人しく殺されれば、魔女狩りもしない。罪のない人も殺さないと約束する。っと言ってきたな』

「それで大人しく殺されたってことか・・・?」

『あぁ。でも奴らは俺を殺した後も魔女狩りをやめなかった・・・』

「そんなの・・!話が違いすぎるだろ!!」

俺はこぶしを強く握りしめて怒った。自分のこの怒りが体の中にいるクロのものなのか、俺自身のものなのかはわからない。でも悲しいよりも怒りが強い。


『奴らの言葉を信じた俺が馬鹿と言われれば話は終わりだがな』

クロは俺と違って冷静だった。もう散々怒った後なのだろう。


『でも・・・』

『関係のない人も巻き込んで魔女狩りをしている奴らを許すことはできん。俺は奴らをこの手で…魔女狩りにあって亡くなったやつらと同じように殺す。たとえまた人々から俺が恨まれようが・・』


クロの言葉から決意のようなものが伝わる。

だからって俺を殺したのは違うだろ…と言いたいところだが、

俺にもこの世界で大切なものができた。元の世界は一人ぼっちで未練もないしな…


「俺も手伝うわ」

『‥‥』

「お前が恨まれたままだと世界で生きにくいしな。運命共同体なわけだし」

『‥‥』

「自分を信じてくれる奴がいるってのは心強いだろ?」


このままエナと2人で森の中で平和に暮らすのが理想だけど・・・。

離れたところとはいえ、ディーニをこの森で殺しちまった。

奴らがここを見つけるのも時間の問題だ。

そもそもエナも魔女ってクロが言ってたしな。

魔女狩りが続く世界にエナを一人にできない。


『お前は・・・馬鹿だな・・・』

クロの声が頭の中で聞こえる。

あぁ。こいつ泣いてる・・・ってわかったが・・


俺は「馬鹿じゃねぇ!」って笑って言った。

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