【2-1】?「フフフ。見つけたぞ。勇者ナツキと魔法使いツカーサ。この我の魔力探知能力に感知されるとは迂闊だったのう」

──【2-1】──


 現代に転生した魔法使いツカーサの容姿は、金髪ではなく長い黒髪になっていた。


 肌の色などは若干変化はしてはいるが、全体的な目鼻口の顔立ちは変わらず可愛らしい。目立たない服装ではあるが胸は以前と同じFカップはありそうだ。

 

 そして彼女のトレードマークともいえる大きなお尻がタイトスカートからこぼれ出そうになっていた。


「ツカーサ。君は変わらず可愛らしいな」

 と男子高校生の容姿の勇者ナツキは、現代の服装のツカーサをジロジロと眺めた。


「勇者様。視線が少し嫌らしいです。それに何だか以前の派手な女性の外見とは違って、何というか地味でどこにでもいる男の子って感じですね」

 と言いにくいことを言った。


「おいおい。ハッキリと言ってくれるな」

 とナツキが苦笑すると、

「おい! 貴様、なんだ!」

 とナツキの背中から不良がすごむ声が聞こえた。


 もう一人の奴は倒れている二人に、

「おい。大丈夫かよ!」

 と言っている。


「というか! 勇者様が男の子になっている!」

 と魔法使いツカーサは困惑気味である。

「今更かよ! ああ、私だ。しかしあの魔王の奴はとんでもない魔法を発動してくれたものだよ」

 と男子の姿になった勇者は笑った。


 その時、男になった勇者の身体が震え出した。

「ん? どうした? おい?」

 と勇者は自分の身体が震えているのを感じていた。


 すると、

「お前、同じ中学だった影の薄い夏木じゃねえか!」

 と目の前の男がニヤニヤと不敵な笑いを向けながら言った。


 すると夏木勇の記憶が蘇る。

 そうか。この身体の夏木勇は、この男山口から時々だがイジメを受けていたのか。それでこんなに恐れて震えているのか。

 と分かった。


「おい。夏木。お前、せっかく進学校に行っているのに、またオレにいじめられたいのかよ!」

 と夏木勇の胸ぐらを掴んだ。


 だが、今の夏木勇の心は勇者ナツキである。

「おい、クズ、離せよ。服が汚れる」

 と言うと、

「何だあ~! このお~!」

 と大きく左腕を振り被った時だった。


 勇者ナツキの猛烈な膝蹴りが、不良山口の胃の辺りにヒットした。

「ウゲゲェェ~」

 とうずくまりながら、今日食べた物を吐き始めた。


「おい。汚えぞ」

 と静かに勇者ナツキは言うと、思いっ切り山口の後ろ頭を踵落としでヒットさせた。山口の顔面が自分の吐いた吐瀉物ゲロまみれになった。


「こっ! この野郎!」

 と一番年上そうな男が襲いかかってきたが、

「数日鍛えたこの身体の能力でも試すか」

 とナツキは呟くと、左腕で相手の顔面を殴った。


 その勢いは目にも止まらぬ速さで、不良の男は後ろに勢いよく倒れ込んだが、

「面倒だな。こいつらしばらく困らせるか」

 と言うと、一人一人右手を踏んでいった。

 

 四人の男達の悲鳴と骨が砕ける音がした。

 そして、

「あ。耳は聞こえるよな。私は格闘の練習相手が欲しいから必ず仕返しにこい。仲間も呼んでいいからな」


 と言うが、四人の男達はうめき声と痛みを訴えるだけであったから、勇者ナツキは、

「聞いてんのか! お前ら!」

 と素早くしゃがんで大き目の石を掴むと、不良らの背中に勢いよく投げた。一人目、二人目、三人目、四人目と石は背中にめり込んだ。 


 うわあ~!

 と悲鳴にも近い声を出しながら、逃げていく連中を無視して、ナツキは不良連中に背を向けた。


「ツカーサ。何だか久しぶりだな」

 と彼女の肩に手を置いた。

「勇者様。助けて頂き、ありがとうございます。そしてお会いしたかったです」


 と大切であろう自作の杖を手放すと、男子高校生夏木勇の身体に抱きついた。

「おいおい。今の私の身体は男だぞ。むやみに若い女が抱きつくのはやめろよな」

 と言いながら、右腕で頭を優しく撫でながら、


「見て分かる通り、フォリオスの頃に比べたら弱過ぎて話にならないんだ。これではオーガレベルの魔物にも勝てやしない」

 とため息混じりに答えだ。


「弱くなったのはわたくしもです。得意だったサンダーも人間を軽く痺れさせるほどの威力しかないのです」

 と男になった勇者から離れて、悲しそうに話した。


「魔法が使えるだけマシさ。私なんて小さな炎球ファイヤーボールが少し出せる程度なんだ」

 と右掌みぎてのひらからこぶしほどの炎を出して、地面に向けて撃った。


「あれ程、強力な炎球ファイヤーボールを撃てた勇者様でも、これだけ魔法が弱くなってしまうなんて……」

 とツカーサは悲しそうに言った。


「どうもこの世界は魔法に関しては十倍かそれ以上の魔力と能力が必要なようだ。炎球ファイヤーボール一発で」

 と言うと再び地面にそれを撃とうとするが、


「ほら。もう、魔力切れだ」

 と小さな煙が出るだけであった。

「だが、身体的な能力はフェリオスと大差は感じない……。おい!」


 と勇者ナツキはあることに気づいた。

「ちょっと待ってくれ。私はこの通り男の姿になって転生したのに、何でツカーサはフォリオス時代と同じ性別が女なんだ? それも見た目が髪の色意外がほとんど変わっていない」

 と不思議がった。


「そうなんです。ですが、その理由は簡単でした」

 と微笑むと、


「私は転生する前に、ハクト様に思わず抱きついてしまったんです。そうしたら私とハクト様は転生されたこの世界で、二人は抱き合ったまま、この公園の芝生に倒れていたんです」

 と語り、


「つまり私とハクト様は女神様のお力で、転生時に離れ離れにならずその上性別が変わらなかったのです」

 と言った。


「そうか……。羨ましいな……。ん? 待てよ。ハクト婆さんと一緒に転生されたって言ったよな?」

 と夏木勇の姿の勇者は言った。

 すると、


「はい。そうです。私はハクト様の居場所を知っています。今からでも会いに行きますか?」

 と言われたが、


「確かに今すぐにでも会いに行きたいところだがな。でも今は男の姿だ。男が日が暮れてからツカーサのような若い女の子と一緒に、見ず知らずのお婆さんに会いに行くのは常識的に問題だろうしな」

 と言い、


「悪いが連絡先を教えてくれ。この世界にはスマートフォンという便利な物があるからな」

 と勇者ナツキはスマホを取り出した。


「連絡先の交換ですね。私、時々この世界の男達から連絡先を教えて欲しい、ってよく言われるんです。いつもは断っていますが、男の人に連絡先を教えるのは勇者様が初めてです」

 と照れながらスマートフォンを取り出した。


「おいおい! 私は別に女性としてツカーサを誘う訳じゃないからな。そこは間違わないでくれよ」

 と困惑したが、


「ウフフ。勇者様。冗談ですよ。それにこの世界の素行の悪い人達から守って下さったのですから、連絡先は喜んでお教えいたしますわ」

 と連絡先を交換した。二人はスマートフォンをかばんに直した。


 ツカーサは自作の杖を右手に持った。

 男子のナツキは、

「では改めて。私は勇者ナツキだが、今は高校一年のこの男子、夏木勇の身体を借りている」

 と自己紹介をした。


「えっ! 高一ですか。なら同級生です! わたくしは魔法使いツカーサですが、この世界での名前は津香沙つかさ真帆まほと言います」

 と自身の胸の膨らみに左手を当てて言った。


「やはりそうか」

 と勇者ナツキ。

「やはり? 何がですか?」

 とツカーサ。


「この世界の苗字とやらが、元々私達がいたフォリオスの名前に響きが同じだということだ」

 と言うと、


「確かにそうですわね。ハクト様も、今のお名前は白兎はくとそうですからね」

 と付け加えた。


「そうなのか! これなら戦士イカリも見つけ出すのは意外とたやすいかもしれないな」

 と両手の拳を握りしめた。



 その二人の様子を陰から見つめている者がいた。

 再会の嬉しさからか?

 それとも現代日本の空気感がフォリオス時代の敏感な感覚を鈍らせているのか?


 陰から覗き見る者の存在に、二人は全く気づいていなかった。


「フフフ。見つけたぞ。勇者ナツキと魔法使いツカーサ。この我の魔力探知能力に感知されるとは迂闊だったのう」

 と薄ら笑いを浮かべる者がいたことに……。


2025年4月6日

2025年11月26日 修正


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