加速する勘違い

「陛下・・本当にアディン殿下を幽閉されるおつもりですか?」


アディンの部屋を後にした彼ら、ダグール国王、宰相ラビノット、ガイオ騎士団長、カムロン公爵らが国王の部屋に集まっていた。

その表情はどれも暗く、悲壮感に満ち溢れている。


それもその筈である。

まさか、今ままでの王太子とも思えぬ行動や言動の数々は、全て洗脳によるものであると知ってしまったのだから。


「宰相よ・・私とてそんなことしたくはない・・ようやく自由になったのに・・ここで幽閉など・・そんなこと」


椅子に腰掛け、机に肘を置きながらダグール国王は苦しそうな声を出す。

洗脳という非道な魔法を掛けられている事に気づかず、何もしてやれなかった。

それどころか追放をしようとしていた事に父親としても、国王としても失格であると事実を知ってから何度も何度も繰り返し心の中で呟く。


あの時ああしていたら、こうしていたらと、尽きない後悔の念に頭がおかしくなってしまいそうであった。


「ですが、殿下の言った通り、何らかの処分がなければ、民衆も貴族も王族に対してよからぬことを画策するでのは・・」


カムロン公爵もまた、口にしたくないと思いながらも口にしなければならないというジレンマを抱きながら、これからのことを伝える。


【アディン・パトレクール・ヴァルデマー】の評判は城内に限らず、街の人間や国内にも知られてしまっている。

更に本日のパーティーでの立ち振る舞いには、更に増長するものになってしまっていた。

肝心のアディンに何の処罰もないとなると、貴族達や民衆から王族離れに繋がり、革命に至る可能性や、他国からの侵略の隙を与えてしまう。


「うむ。勿論、それもわかっている・・だが、アディンは被害者である。あやつに全ての罪を着せて終わらせる方法が果たして正しいものなのか・・」


99を助けるために1を切り捨てる。

それは上に立つものとして正しくも、冷酷な判断の一つである。

全てを救うなど、夢物語であり、現実にはそれがいかに難しく、大変であると理解はしている。

理解しているが、ダグール国王もまた上に立つものでありながら、一人の父親に過ぎなかった。


その犠牲者が、自身の息子であり、尚且つただ巻き込まれただけの被害者に過ぎないため、どうしても認めることができないのだ。


「それならば、洗脳の故であると伝えたら、どうなると思う?」

「王族が洗脳されていた、とあらば国民は疑心暗鬼になり、国は荒れてしまいます」

「であろうな・・・」


答えを知りながらも、小さな望みにかけてダグール国王は宰相ラビノットに問いかけをしたが、返って来た回答に更に落胆を隠せない。


一人洗脳されていたら、他は大丈夫なのか。

あいつかどうだ。こいつは操られていないか、と何が真実で何が嘘なのかそれすら見極めできなくなり、国は荒れ果てる事になってしまう。


良い案が浮かぶことなく、1時間程が経過した頃、

「ウルジャス殿下!そちらはまだ駄目です!」「ちょっ・・ウルジャス殿下!?」と部屋の前を守る護衛たちの声と共に、もう一人の息子が扉を蹴破る勢いで室内に飛び込んできた。


「父上!兄上は大丈夫でしょうか!?」


他の騎士団の人間からパーティー中に倒れたと聞き、慌てて来たのであろう。息と共に服装も少し乱れていた。

追い出すべきかとあわあわしている護衛達にグール国王は、手を振り、ウルジャスを部屋に向かい入れた。


「ウルジャス・・王族たるも、少しは・・」

「そんなことはいいんです!それより、兄上は?」

「・・・お前は、アディンのことを嫌っていなかったか?」


ダグール国王は、ウルジャスの問いに答えず、質問を返した。

それに対し、ウルジャスは気まずそうに口を開いた。


「そりゃ嫌いですよ、大嫌いです!!」と彼にしては少し乱暴に頭をかき混ぜる。

そして、更にか細い声で続けた。


「でも、小さい時の兄上を知っているから・・・優しいあの兄上を知っているから・・・どうしても嫌いになれないです・・・」


しゅん、と肩を落とし、ウルジャスはそう口にした。

ウルジャスは最近の兄のアディンのことに嫌悪感を抱いていた。

婚約者のリア嬢への態度と言動や、使用人達への暴言の数々など、口に出しても足りない程の立ち振る舞いを間近で見てきた。


だけど、幼い頃の兄は優しくて、かっこいい人だった。

何がそうなったか、そうさせたかわからないが、変わった兄を見るのが辛くて最近は避けていた。


だが、今日行われたパーティーで兄が倒れたと知り、慌てて学園から戻って来たのであった。


「そうか・・安心しろ。お前の大好きな兄は帰ってきたぞ」

「え?それは、どういう意味でしょうか?」


父親の言葉の意図がわかららず首を傾げるウルジャス。

そんな彼に、ダグール国王は先ほどの出来事を口にした。


「そんなっ・・兄上が洗脳されていたなんてっ!?」


ウルジャスは、泣き叫ぶような声をあげた。

そして、ハッとしたように「それじゃあ、今までの言動とか、態度も・・・」と先ほどの真実を知った彼らと同じように顔を青ざめながらそう話す。


「ああ。何者かの手によるものであろう」


ダグール国王の言葉に、ウルジャスは「そんな・・・」と呟きながら、力無くその場に座り込んだ。


「ウルジャス・・」


ダグール国王は彼の名前を呼ぶと、ウルジャスは

「良かった・・本当に・・良かった!それならあの兄上は・・ただ、操られていただけなんですねっ・・・」

ボロボロと涙を流し、泣きじゃくりながらそう言葉を放った。

その様はまるで幼い子供のように泣きじゃくる様に、いくら王族として立ち振いをしていても、まだまだ子供なのだ。

年相応のウルジャスの様子に、ダグール国王は、まだ14歳だったな・・と心の中でそう思っていた。



ダグール国王は、ウルジャスの様子に椅子から立ち上がり、彼の前に膝をついて抱きしめた。

父の抱擁にますます涙を流しながら、「兄上・・兄上っ」とただ一人の兄のことを思った。


兄のアディンから嫌いだと、目障りだと何度も吐かれた言葉の数々が、兄の真意ではないと知り、嬉しさと安堵で涙が流れてきた。

あの冷たい瞳に見られで怖かった。

かつての優しい眼差しを忘れる事ができなくて、何度も一人ベットの中で泣いていた。


そんな兄を思い涙を流すウルジャスの様子を見て、ダグール国王はふと過去を思い出していた。

そうだ。昔はとても仲の良い兄弟であった。

他の国でもよく見受けられる継承権を巡って兄弟通しで殺し合ったり、足を引っ張りあったりするような関係もなく、

アディンも兄として、弟を可愛がり、弟ウルジャスもまた兄を慕っていた。


それが変わったのは、一体いつだったのだろうか。

ふとそんなことを考えていると、腕の中にいるウルジャスは顔を上げて、ダグール国王に向かって問いかけをした。


「父上!これからは兄上と一緒にいられるのですよね?」


泣き腫らした目と、どこか期待するような声で話すウルジャスに、ダグール国王は言葉が出なかった。

その場にいた宰相らも国王同様にウルジャスの言葉に何も口にすることが出来ないでいた。



「どうして・・そうだ、って言ってくれないですか?ねぇ・・父上・・ラビノットさんも・・どうして?何も言ってくれないですか?!」


父親の反応や、宰相や騎士団の固い表情にウルジャスは、叫ぶように話す。

どうして、何故という思いを込めて口にするが、ダグール国王はまるで自身に言い聞かせるかのように重い口を開いた。


「いくら操られていたとしても、アディンの城内や国内での評判を知っているだろう?」

「それはっ・・そうですが・・でもそれは!」

「わかっている。だが、混乱を避けるためには洗脳の件は伏せなけばれならんのだ。お前もそれはわかるだろう?」

「っ・・でも、じゃあ兄上は?どうなるんですか?」

「アディン本人が厳罰を望んでいるのだ。あの子は自分のせいで皆を傷つけたと悔やんでいる・・それ故に幽閉をするようにと先ほど進言してきた・・」

「そんなっ・・幽閉なんて・・・」

「わかっている。私とてアディンを幽閉などしたくないのだ・・だが、他に良い方法が・・・」


無力な自分を嘆くかのようにダグール国王は、そう口にした。

このままでは、アディンを幽閉する事になれば、ウルジャスの心はどうなる?真実を知った婚約者のリナ嬢の心は?

何か良い策は、とぐるぐると考えを巡らせていると、


「陛下・・・アディン殿下を幽閉しましょう」

「ラビノット!?お前何を!?」


宰相ラビノットの発言にガイオ騎士団長は思わず声を上げて、宰相ラビノットの胸ぐらを掴んだ。


「落ち着いてください、ガイオ騎士団長。私も何も地下の牢獄に収監しましょう、と口にしている訳でありません」

「ん?どういう意味だ?」


離してください、と小さくガイオ騎士団長に告げた後に、いいですか、と勿体ぶるかのように話し始めた。


「もしも、仮にこのままアディン殿下に何もないままにしてしまうと、考えたくはないですが、城内で命を狙われる可能性が出てきます。

そして、彼に洗脳の魔法をかけた者が、今度はどんな手に出るのかも考えて、護るための隔離です」


幽閉と聞いていたため、城の地下に存在する穢らしい牢獄を考えていたが、宰相ラビノットの言葉になるほど、と思い至った。

安全に護ることを考えたら、離宮などで護衛を大勢つければ身の安全は保証することができる。

その代償は、


「その変わり、アディン殿下には不自由を強いてしまう事になりますが・・・」


自由と引き換えの身の保障だった。

今まで不自由を強いてきて、ここで更に自由を奪われる事になるアディンに罪悪感を抱きつつも、最良であると考えての策だった。


「確かにそれならば、護りやすくなりますな・・」

「うむ・・皆には幽閉したと伝えておけば、何の処分もしなかったという追求からは逃れられるか」


ガイオ騎士団長と、ダグール国王は宰相の言葉に頷きながら話す。

そして、


「最高級の寝具など整えて、居心地を良いものにしましょう!そして、食事面なども考える必要がありますね」

「そうだな。飽きぬように本なども用意するか」


よく眠れるようにと、最高級の羽毛の枕や、シルクの掛け布団。そして、栄養のバランス取れた食事などを身の回りのことを考えて宰相ラビノットは、伝手の商人たちを顔を脳裏に描き、カムロン公爵もまた、昔アディンが好んでいた本などを取り寄せようと考えていた。


「部屋に引きこもっては身体が鈍ってしまいますので、部屋で出来る運動など私は、考えてみます!」


先ほどの絶望仕切った顔ではなく、役目を得ることが出来、ウキウキした表情のガイオ騎士団長。

そして、


「話し相手として、僕も行っても良いでしょうか?」

「構わんぞ。これから思う存分、兄弟としての時間を取り戻せば良い、私も父と子の時間を取り戻せるように努めなければな」


恐る恐る、といった具合に、ウルジャスは、父親に許可を求めた。

ダグール国王も、にこやかな笑みを浮かべ、息子の頭を撫でながら、笑いながら許可を出す。



さて、こうして、紆余曲折合ったものの、地下牢の幽閉から、離宮での最古級の幽閉生活へアディンが思い描いていた未来に近づいたが、

このまま上手くいかないのが、世の常である。

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追放宣言前日の最後の悪足掻き 目指せ、グータラな生活! @whiterabbit135

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