第14話 公園の探偵 2
毎晩のように見る悪夢。
でも、さっきその話はしていない。
「は、はい。何度も繰り返し。なんで知ってるんですか?」
「君が見たもの――それは、この世界の終焉だよ」
「……終焉……?」
「うん。この世界に、終わりが迫っている」
探偵さんは、またパッキーを一本取り出して、
ぽりぽり食べながら続けた。
「君は世界の終わりを見ている。それはあるべきこの世界の姿だ」
「あるべき……世界?」
「そう。そして君が僕を見てくれたから、僕はこの世界にやってくることが出来た」
――この人は一体何を言っているんだろう?
見た目通り、怪しい変な人なんだろうか?
それともちょっと頭が弱い?
あるいは重度の妄想患者?
もしかしたら、この人、催眠術師の詐欺師とかで、私は夢を見せられていたんだろうか?
なんてこと! そうだとすると、あの夜の出来事が納得できる!!
私は、色々な懸念をひとまず棚に上げて、目の前の変な人についてだけ考えを巡らせる。考えれば考えるほど、この人いかがわしい。
何だかどんどんフィルターが剥がれてきて、そう言えば真夏に黒コートだし、ホームレスだし、怪しいところしかないんじゃない!?
――やっぱり変態?
「ちょ、ちょっとその目つき!! 何だか非常にいかがわしい人を見る目で僕を見てないかいっ!?」
「あ、ごめんなさい。根が素直なもので……」
ふぅ、と大きくため息をついて、探偵さんは、私の目をまっすぐ見た。
「もう一度いうよ? この世界には終焉が迫っている。君が視たとおりにね」
静かな声でいう探偵さんは、とても真面目な顔をしていた。
そしてその目は確かに正気を保っているように見える。
熱狂的な狂気もなく、押しつけがましくもなく、ただ静かに私を見ていた。
「……終焉? 世界の終わり?」
思わず、声が、震える。
脳裏に夢に見た、あの終焉の光景が蘇る。
「……それじゃ、あれが現実のものになるんですか?」
「そう、だから僕はここに来た」
その証拠に、僕は君が視た夢の内容を知っているだろう?
そういって探偵さんは、ふわりと笑った。
――確かに。
私はあの夢のことを、数年前、病から回復してから度々見るようになったあの夢のことをこの人には話したことがない。
なら、何故、この黒衣の青年はそのことを知っていたんだろう?
それに、あの身体能力。
あれが現実だったら……ううん、あれは間違いなく現実だった。
この人は、確かに普通の人じゃない。
まるでラノベだ。
私はあの手の物語が大好きだけど、実際に巻き込まれてみると、とんでもないとしか言い様がない。
ホント、どうすればいいんだろ?
思わず縋り付くような思いで探偵さんに目をやる。
「おや、なんだか見る目が変わった。少し納得してくれたみたいだね」
「――根が素直なもので」
私の返答に、探偵さんはもう一度軽い笑みを浮かべる。
「自己紹介がまだだったね。――僕は探偵。終焉の探偵」
「……終焉の……探偵?」
「世界を滅びに導く、終焉存在を探すのが僕の仕事だ」
言って、探偵さんは、すっくと立ち上がった。
その表情は凜然としていて、とても情けなく行き倒れていた人と同じ人物には見えない。
くるりと身を翻し、私の前に立つ。黒いコートの裾がまるで羽のようにふわりと広がる。
「お嬢さん。僕に、依頼してくれないかな」
「依頼……?」
「僕はこの世界の終焉を、食い止める。君の悪夢を止めてあげるよ」
探偵さんは、手を差し出した。
厨二っぽい言い回しだけど、これは現実だ。
「――でも、私何も支払えませんよ? お小遣いなら少しだけありますけど」
私の言葉に探偵さんは首を横に振る。
「いいんだ。この世界の滅びを食い止める、それが、僕への報酬でもある」
私は、探偵さんの顔を見た。
優しい目。
でも、その奥に、強い意志が見える。
「……お願いします……探偵さん……」
私は、差し出されたその手を見た。
(っ……!)
一瞬、躊躇してしまう。
あの夜のことが、フラッシュバックする。
お姫様抱っこ。腕の感触。体温。
(ち、違う……今は……!)
顔が熱くなるのを感じながら、
私は、その手を――握った。
大きな、温かい手。
探偵さんが、私を見た。
優しい目。
――もともと整った顔立ちだとは思ってたけど。
こうやって間近で見ると、睫毛、長い。
黒目が、黒曜石みたいに深くて。
あ、なんか私、またフィルターかかってきてる!?
(……破壊力、やばくない……?)
心臓が、バクバク鳴る。
探偵さんの手を取り、私も立ち上がる。
軽く力を込めて握られた探偵さんの手を、私は強く握り返した。
「……私の悪夢を……止めてください」
声が、少し震えてしまった。
「ご依頼、確かに承ったよ。僕が君の悪夢を終わらせよう。
この世界を滅びに導く者を暴き、世界を存続させて見せるとも」
――その瞬間。
探偵さんの手が、ほんの少しだけ熱くなった気がした。
握り合った手のひらから、何かが流れ込んでくるような。
(……え?)
いや、違う。熱いのは――私の方だ。
顔が、耳まで真っ赤になってる気がする。
「あ、何だか暑いですね……!」
慌てて手を離して、片手でパタパタと自分を仰ぐ。
「そりゃ夏だからね?」
探偵さんが、不思議そうに首を傾げた。
(違うっ……そういうことじゃなくて……!!)
探偵さんが、小さく呟いた。
「これで――契約、成立だね」
その声は、とても静かで。
でも、確かに何かが変わったような気がした。
「え……? 今、何か……」
「ん? 何も言ってないよ」
探偵さんは、いつもの優しい笑みを浮かべた。
でも、その目が――ほんの少しだけ、深くなったように見えた。
「それじゃ早速仕事をはじめようか。
まずは、お嬢さんの名前を教えてくれるかい?」
「――え?」
いってなかってっけ?
いや、探偵なんだから、私の名前くらいわかって――。
「探偵だけど、何でも知ってる訳じゃないんだよ?」
そう言って、探偵さんは照れたように笑った。
◇
「それじゃ、私はワトソンですね!!」
「えーっと、和豚村?」
発音で何だか酷い侮辱をされたような気がする。
本能的にわかる!!
「違いますっ! ワトソン! 探偵には相棒が必要でしょう?」
「へぇ? そうなんだ。知らなかったな」
「――もう。実はエセ探偵なんじゃないですか?」
ジト目で見る私を、いかにも心外だという表情を浮かべた探偵さんは、両手を大きく広げ、舞台役者のようにポーズを取りながら私を見る。
「探偵とは真実を暴き、それを白日の元に晒す者。間違いなく僕は探偵さ」
東池袋公園で、ノラ猫に見られながら高々と告げる探偵さん。
ひょう、と。
一瞬風が吹いたような気がした。真夏だというのに何だか寒々しい風が。
「……はぁ。そうなんですね~~」
気取った物言いに思わず棒台詞が口をついて出る。
「ホントに君は時々失礼だなっ! 真弓くん!」
憤慨したような口調でいう探偵さん。
私たちはお互いを見つめ合い、思わず二人で笑い合ったのだった。
不思議と、心が軽くなっていく。
「まずは君の失踪した後輩さんの行方からだね」
「はい、真弓ちゃん、心配なんです」
「さて、それじゃあ早速――」
その時。
公園の入口に、人影が現れた。
セミロングの髪。
静かな、でも圧倒的な存在感。
――梓さんだ。
「……虚木真弓さん」
梓さんが、こちらを見ていた。
「そして……あなた」
梓さんの目が、探偵さんを見た。
「……やっと、会えたわね」
静かに梓さんが口を開いた。
◇◇◇
これにてChapter 3終了です。
役者が揃ってきました。ペアを組んだ探偵と真弓。
謎の転校生、矢野梓。
そして未だその姿を現さぬ敵。
全ての物語は、ここから加速してゆきます。
ここまでの読了に感謝と、この先も読んで頂きたくお願いを。
そして応援の♡はいつでも、まとめてでも大歓迎です。
カクヨムコン参加作品ですので、☆での応援はとても嬉しきです!!
それでは次の章でお会いしましょう!!
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