3
鶴野と川野は周りを見渡していた。
携帯を出してGPSを起動してみる。でも反応はしない。ネットは繋がっているようでYouTubeやXの通知がリアルタイムで来る。なら、ここはどこなのだ?訳も分からずに放心状態になっていた。
「なぁ、俺たち反対方向の電車に乗ってたよな?」
川野が口を開いて2人の放心状態が終わった。
「あぁ、それにさっき回送電車って。僕たちそんなに寝てたか?あ、待って時間。」
1時15分。寝過ごしたにしては時間が全く経っていない。終電の時間は1時9分。6分で山手線を一周するなんて不可能もいいところだ。
2人はもう一度周りを見渡してみる。
自分たち以外の人間はそう多くない。座っている人、モニターを確認する人。
もうすぐ神田駅に着いてしまう。その前に何か、何か分かることを探さなくては。近くに座っていた40代ぐらいの男の人。顔は青ざめており、体をしきりに震わせている。近ずいてみると何かを喋っているようだった。
「あの、すいません。大丈夫、ですか?」
川野が声をかけたが反応は無い。近ずいたことで少し何を言っているのか聞き取れた。
「オリチャイケナイ…オリチャイケナイ…アタマガマッシロダ…モウナニモカンガエラレナイ。」
聞き取れたのはそのぐらいだ。満身創痍な様子で、まさかこの電車にずっと乗っているのか?
もう少し観察をしていようと思ったが神田駅に着いてしまった。電車が止まり、扉が開いた。すると勢いよく立ち上がり、目の前にいた川野を突き飛ばしてドアの外へ行ってしまった。
追いかけて見たがドアが閉まった。ドアの外の様子を確認したかったのだが、無理だった。
電車は走り出す。次の駅は秋葉原だ。
着くまでの少ない時間でモニターを見ている人に話しかけてみることにした。女性でさっき見た時と変わらない。「変わらない」っていう表現はおかしいように聞こえるだろうが本当にさっき見た時と立ち位置、ポーズ、表情全てが変わらない。まるでリセットされるゲームのNPCのよう。
恐る恐るだが声をかけた。
「あの、すいません。実は僕たち迷ってしまって。」
「あら、本当?実は私もなのよ。白いオムライスを食べに来た帰りなのに、やっぱり都会は怖いわね。1回次の秋葉原で降りてみようと思うの。」
自分たちもそうしよう。これ以上、品川から離れる訳にも行かなかった。外に出れば何か分かるに違いない。駅員さんに事情を話せばなんとかなるだろう。そんな浅い考えだった。
『まもなく、秋葉原。秋葉原。お出口は右側です。』
着いた。女性とともに駅のホームに出よう。扉が開き、外の様子が見えた。普通の駅のホームのようだ。女性が先に降りたあと、川野が続けて降りようとした。だが、鶴野がそれを止めた。なぜだかは分からない。体が勝手に嫌な予感を感じて勝手に動いた。
「なんで止めるんだよ。早く降りて帰ろう。」
「待ってくれ、何か嫌な予感がするんだ。あれ!」
先に降りた女性がこちらを向いている。顔がかなり苦しそうだ。目の色が変わり、白と黒のオッドアイになっていた。
その場に立ちすくんでいると、女性の胸の心臓の辺りがエグれた。生易しいものではなくて、見ただけで「死ぬ」ということがハッキリ分かるほどエグれた。
2人の息が荒くなった。
電車のドアが閉まり、2人は顔を合わせた。ここで気づいたのだ。自分たちはとんでもないものに乗車してしまったのだと。
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