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東京の品川付近。2人の警官が見回りと聞き込みをしている。

最近東京で多くの行方不明事件が起きている。その調査として聞き込みと見回りが義務付けられたのだ。警官からしたらたまったものではないだろう。行方不明事件の手がかりは「東京」ということのみ。そこから犯人を探し出そうなんてアリのコンタクトを探すようなものだろう。時刻は0時になろうとしている。

警官の雨谷蓮二(あまがいれんじ)と鈴木愛莉(すずきあいり)はウンザリしていた。こんな無理な捜査をするのは警官になってから初めてだった。

事件なら少しぐらい手がかりがあるものだが、今回はそんなもの無いのだ。強いて言うなら行方不明になったのは全て20代以上の人間。子供はさらわれていない。でも、そんな情報、全く役に立たない。

ここ1ヶ月、行方不明者は増えるばかり。警察も手を挙げている。マスコミの対応、無能だとクレームを受けてそれにどう応えるのか。市民の安全を保証できないといった状況に陥っている。

それぞれの地域の警察署の警官は同じように捜査をしているそうだ。苦しんでいるのは自分たちだけではない。逆に言えば自分たちだけ楽をしてり、サボることはできないということ。

「手がかりも何も無いのに、こんな無茶な捜査。本当に意味あるの?これ。」

「俺に聞くなよな。早く出世したいってのに、本当にいい迷惑だ。上のやつらのかなり焦ってるみたいだしな。」

「マスコミとかに追われて、早く結果を出さなきゃいけないんでしょ。何も知らない奴らが偉そうに語るよ。」

「ま、そう考えるとマスコミにガヤを入れられない仕事なだけまだマシかもな。」

「出世したいんじゃなかったの?」

「それとこれとでは話は別だ。」

2人は息のあったコンビだ。話も噛み合うし、上の人への愚痴でもなんでも話せる、いわば友達以上恋人未満みたいな関係だ。

「っていうか、行方不明者の多くが最後に目撃されてるの、東京駅なんでしょ?なんたってこんな場所を捜査してるのやら。」

そう、行方不明の多くは東京駅で姿を消している。全ての場所に監視カメラがある訳では無いが、電車に乗ったならせめてどこかの駅の監視カメラに映っていないとおかしい事になる。だが、問題はそんな事実がどこにもないということ。そして、消えた人の多くは「山手線」に乗っている。

ここまで聞けば手がかりはあると思うだろう。しかし、厄介なことに全ての行方不明者が東京駅で消えたという訳では無いのだ。

警察はこの事件を同じものと見ている。そう考えるのが妥当だ。そうでなければ、行方不明事件が2件発生していることになる。とても面倒極まりない。それに、消えている人の年齢層が20代よりも上という点も合点がいく。

「にしても、なんで大人が消えるのかね。こういうのがもし誘拐だとしたら子供の方が狙いやすいんじゃない?不謹慎なこと言うようだけど。」

「それは私も思ってた。けど、消えたのは全員成人済み。これで、東京駅だけで人が消えてるなら捜査が楽だと思うんだけどな。」

実際、東京駅で消えていない人も東京外で消えたと言うには証拠が足りない。それに聞き込みによると消えた人を目撃したという証言も少なくない。恐らくは東京内のどこかで姿をくらませた可能性が高いということ。

もうすぐ1時を回ってしまう。こんな時間に聞き込みなんて気が狂いそうになる。ドアチャイムを鳴らし、扉が開くと文句ばっかり。「何時だと思ってんだよ。」「聞き込みならもっと昼にやるべきだろ。」だのなんだのって。こっちは昼もやってるんだよって怒鳴りたくなる。そのうえ、事件が解決しないならネットで無能な警察だって書き込む、可哀想なおつむの市民のくせに。そんなヤツらのために命を貼ることもある仕事をしていると考えると時々吐きそうになる時もある。そう鈴木は感じていた。おそらく、雨谷もだろう。

「はぁ、ガチ萎えるわ。」

「まぁ、そんなもんだろ。さっきのやつは俺もぶん殴りたくなったけどな。」

「殴っちゃえばいいじゃん。」

「冗談でもできねぇな。この仕事をもし辞めるってなったらそうするよ。」

「期待しないでおくよ。アンタはウチの相棒でいて欲しいからね。」

「んだよ。急にデレやがって。」

聞き込みはあと1軒のみ。これ以上の時間はもう無理だ。

マンションの角部屋。最後の聞き込みの場所。ドアチャイムを鳴らす。2人とも扉が出来れば開かないで欲しいと願った。その願いは届かず、「ガチャッ」という音と共に扉が開いた。

20代くらいの男が出てきた。寝ていた感じはしない。

「何か?」

「最近、東京で行方不明事件が起きていて。その、何か知っていることがないかと思いまして。何かこの付近で怪しい人を見たとか。」

「いえ、そういうのは無いですね。」

「そうですか。」

「でも、そういうのなんだか少し僕が調べているものと似ていますね。」

「調べているもの?」

「オカルト系、都市伝説とかです。」

こいつは何を言っているのだろう。雨谷も鈴木もそう感じた。目配せで「これは関わらない方がいい。」と合図をした。暗黙の了解と同時に「ありがとうございました。」と言ってその場を離れようとした。

「行方不明の人たちって成人済み、20代よりも上の人たちなんじゃないんですか?」

2人は立ち止まって振り返った。

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