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雨谷と鈴木は顔を見合わせた。
限りなくゼロに近い手がかりを聞き込みした人が偶然言い当てたのだ。いや、偶然なのかも怪しい可能性がある。第一、都市伝説系の話を聞いて、それが辻褄があってたとしてだ、上にどう報告する?不思議な力が働いて人々が消えていると?
「ねぇ、どうするのよ。あの人の話、有力な情報になると思う?」
「分からない。でも、有力じゃない可能性はゼロじゃない。この機にチャンスを逃したら後悔する。聞くだけ聞いてみよう。」
2人は振り返った。男の人はまだ玄関を開けてこちらを見ている。まるで、「意見はまとまったかな?」と問いかけてくるような雰囲気だ。
「知っていること、やはり、教えて貰えませんか?私達もその分情報は提供します。」
「合っていたんですね。僕の考察。どうぞ、入ってください。今、お茶でも用意するので。」
2人はまた目を合わせた。ここまで来て引き下がることは出来ないが、まだ疑心暗鬼状態だ。この男の話が全く辻褄が合わないなら時間の無駄。その分早くあがって家で休めたであろう。
ほんの少しの期待と、かなり大きい不安を抱えながら部屋に入った。部屋は綺麗とは言えないが、汚いとも言い難い部屋だ。壁には色んな調べ物の紙が貼ってある。そのほとんどがオカルトや都市伝説に纏わるものばかり。本当に専門的に調べているのだろう。それか、もしくは趣味の一環なのか。部屋に机と椅子があり、お茶が来るまで椅子に座って待った。
雨谷と鈴木は会話を失っていた。今はこの部屋に興味を持ってかれている。難事件を調べる人でもここまで細かくはやらないであろう。かなり入念に調べていることが分かる。計画性の高い人なのだろうと予想するのは今まで色んな人や家を見てきた警官だからこその特権のような気がする。日常的にそれが出てしまうことが悩みではあるが。
男がお茶を持ってテーブルに置いた。自分も腰かけると「どうぞ」と自分たちの目の前に進めてきた。
「あの、お名前の方は?」
なんで呼んでいいのか分からず、鈴木が聞いた。
「阿部っていいます。」
「阿部さんですね。ありがとうございます。それで、東京の行方不明事件について何か心当たりがあると?」
オカルトでも都市伝説でもなんでもいい、手がかりが欲しいという気持ちが先走って雨谷の口から出た質問だった。
「あることにはあるんですが、その事件の概要をもう少し詳しく聞かせて貰えませんか?例えば、どこを最後に消えてしまったのかとか。その全貌を聞いて僕の予想と照らし合わせてみるんです。」
「これは、失礼しました。つい先走ってしまいました。鈴木、事件の説明よろしく。」
「え?私が?めんどくさい」と口にしてしまうのを必死に抑えて説明をした。行方不明者は全て東京内で消えていること。東京駅での目撃が最後の人が多いこと。消えた人は駅だけではないこと。
「そうですか。駅の方はもしかしたらというのはあります。ですが、駅以外の人は違うかもですね。」
「え?ということはこの事件は同一のものではないと?」
雨谷は少し驚いて言葉を返してしまった。
「僕はそう考えます。僕が調べていた都市伝説は電車のものです。行方不明者が電車に乗って消えたのなら説明がつきます。しかし、それ以外を含めてしまうと話は合わなくなってしまう。この行方不明事件は2つの脅威があると考えた方が妥当かと。」
1番考えうる最悪な状況だ。行方不明事件の脅威が2つ?1つを解決するのにも手間取っているのに、もう1つなんて調べられたものじゃない。それに、駅というヒントすらない。そもそも、証拠もなしに東京でどうやって犯人を探せばいいんだ。そんな文句を言いたいところだが、今は話を聞こう。1個でも解決できれば功績は手に入る。
「あなたたちは都市伝説を信じますか?」
「それは何故ですか?信じてないといけない?」
「もちろんです。信じてない人に話したってなんの意味もない。疑ってもいいです、こんな話。でも、信じることを約束してください。」
「わ、分かりました。」
阿部の謎の圧にやられそうになった。急に熱を出して来て少し押された気がする。嘘でも今は了承をするしか無かった。そんな些細なことで話を切り上げられてしまっては元も子もない。
「それで、今回はどんな都市伝説が絡んでいると?」
雨谷が抑えきれないかのように質問をした。
「駅が関係しているように見えますが、そうじゃなさそうです。駅である可能性も捨てきれません。ですが、行方不明者はみんな『回送電車』に乗ったと僕は考えています。」
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