第4話 巨人の襲来
後ろから現れた白鎧の巨人が女巨人の腹を槍で貫いていたのだ。
あれは男体型の巨人だ。
「エロウフサネフスジアブ」
「何て言ってるんだ?アテナは何て?ルチア!」
「……ネフスジアブは、言った」
「エゲフゾアユボウ」
「アテナ、それ合ってるの?……そう、分かったわ」
どうしたんだ?
「……それは、いらないって」
は……?まるで物のように言うのは何故だ?アテナに言葉を教えたルチアはそんなこと言わない。アテナもそんなことを言う性格だと思えない。人間の俺たちにも親切だった。なのに。
「……巨人同士で……」
物のように扱い、殺した。俺たちが呆然とする中、槍に女巨人を刺したまま槍巨人が飛び去る。
「おい、待て!」
「リン!」
前に飛び出そうとした俺をカルマがアディティアの腕で止める。
「基地の消耗や損傷を立て直すのが第一だ」
「……」
カルマの言うことも一理ありすぎる。分かってる。俺はずっと基地で見守る側だったから……。
「戻ろう、リン」
「……分かった」
俺たちは基地に帰還し、遺跡での報告書から基地の修繕、物資の補給などで駆け巡る。
「ネフスジエフの治癒は神騎の適合者のみか」
「うん、ごめんリュウ兄」
負傷者の治療で試してみたのだが、中に入れるのは適合者のみだった。
「いや、一番怪我を心配しなくてはならないのはお前たちだ。お前たちに怪我がないのが一番だ」
「ありがとう、リュウ兄」
一時休憩を言い渡されると、ルーンがやって来たようだ。
「エグニル!」
「ルーン、ちゃんといいこに出来てたか?」
「アイアフ!」
ルーンが頷けば基地の防衛担当たちからも迎撃を褒められていた。
そして休憩室に戻ればイェリンたちが思い詰めたように空気が重い。
「あの巨人、何で仲間を」
イェリンが拳を握りしめる。
「味方同士なはずなのに」
ルチアも苦しそうだ。
「仲間同士の喧嘩とかいさかいとかそんなのとは訳が違うからな」
カルマの言う通り、アイツは仲間を殺したのだ。
「それ、誰かさんのこと言ってる?カルマ」
「そう言う訳じゃない、ルチア!」
カルマが慌てて首を横にふる。
「勝手にすればいい」
ゼキがそう短く吐き捨て休憩室を後にする。
「らしくない……失言だった」
「ごめんカルマ……私の方こそ」
「ルチアとリンが戻るまでの間、お前たちが死ぬかもしれないと思ったら……俺は心の余裕がなくなっていたのかもしれない」
カルマがイェリンを見る。
「……無理もないよ。私も怪我を負ったし、前の戦いではルチアも」
「そう……だよね。私たち、リーダーだからってカルマに負担かけてるのに」
「そんなことは……」
「でも大丈夫!これからは私が復活したんだから!ちゃんと頼ってよね!」
「ルチア……ありがとう」
「うん」
こっちは何とか心配なさそうだけど……問題は。
「ちょっと行ってくるよ」
「リン、なら俺も」
「私も……」
カルマとルチアが悟ったのか立ち上がる。
「大丈夫だから。ルーン連れてくし」
「アイアフ、エグニル!」
ひとりではないからか、2人とも納得してくれたかな。
ルーンを連れて外を探せば……いた。
「ゼキ」
「……何の用だ」
「その、カルマはそう言うつもりで言ったんじゃないと思う。カルマはリーダーとしてお前たちのことを何よりも……」
「説教のつもりか」
「え……っ」
「巨人と戦えるから、立場が逆転したと舞い上がってるつもりか」
「違う……俺はずっとゼキと友だちで、仲間だと思ってる!」
「俺にはそんなものはいらない」
「ゼキ!」
伸ばした手は弾き飛ばされ空を掴む。
「アム、エグニルナヨアツ、イケズ、オアドゥナン?」
「ルーン?」
わざわざ節を区切って告げてくる。俺と……ゼキのことか?どうしてかそのニュアンスが分かる。
「励ましてくれてるのか?ありがとな」
「アイアフ!」
なでなでとルーンの頭を撫でてやれば俺もすうはぁと深呼吸をする。
「カルマもルチアもイェリンも、ゼキだって頑張ってるんだ。俺も頑張らないと」
「アイアフ!」
その翌日は襲撃もなく、久々にエレナ先生の授業を受け仲間たちと過ごす。気が付けばゼキの姿がないのがいつも気にかかってしまうけど。
そんな中、俺とルチアがリュウ兄に呼ばれ基地を訪れる。
「今回呼んだのはアテナのグレードアップの件だ」
「はい、リュウガさん」
「アテナがグレードアップしたと言うことはほかの神騎も巨人戦に向けてグレードアップ出来ると言う可能性だ」
「ええ。アテナもそれが出来るかもしれないと言っていたけど……アテナのように招いてくれることが必要な可能性はあります」
アテナもアップデートには条件付きのように言っていたからな。
「それが
「アテナは自分以外は難しいと言っていました」
「なら……」
「可能性としては……リンがほかのメンバーの核の球体に入ることかと。私の球体に入れた以上、ほかの球体にも入れるかもしれません」
「俺もそう考えていた。研究員とで実験したことはあれどリンが他者の球体に入れるかどうかは実験したことはない」
俺は覚醒すら出来なかったもんな。当時はそれどころじゃなかったから。
「ルーンから習った言葉で何とかできるかどうか……取り敢えず肯定と否定なら分かる」
「あ、それなんだけどリン」
「どうした?ルチア」
「あの、アテナにルーンと会話できるかって聞いたことがあるのよ。そうしたらね……その」
ルチアは言いづらそうに、しかしそっと口を開く。
「結構……訛っていると言うか、ちょっと違うみたいなの」
「……ネフスジエフは普通に答えていた気がするんだけど……でも、違ったかも」
同じことを言っていると分かった。けれどふたりの言葉は違ったのだ。ネフスジエフは聞き取れるけど……アテナには難しいってことか?
「だが現状それしかできない。遺跡に向かうとしてもほかの遺跡はアテナのものから比べてだいぶ離れている」
俺を連れ立って行くのなら、巨人が襲来すれば自ずと3人で行く事になる。ルチアがいるとはいえ、巨人が2体以上来るかもしれない。この間だって戦わなかっただけであの槍巨人と同時戦闘になっていたかもしれない。
「3人の中で一番近い遺跡はどこなんだ?」
「……そうだな、イェリンのアルテミスの遺跡。次はカルマのアディティア……一番遠いのがゼキのチェリクだ」
「ならまずはイェリンに協力してもらうわよ」
「分かったよ、ルチア」
早速イェリンに事情を説明し、アルテミスの核を球体に展開してもらう。
「入れる?」
「……」
ゆっくりと指を差し込む。
「いけた……!」
「なら、早速アルテミスに話してみるしかない。……私もルチアの真似をしてみたのだけど」
「へぁっ!?」
ルチアのすっとんきょうな声が飛ぶ。
「たまに答えてくれているのか……私には聞き取れないけどね」
「でもやってみないと。ルーン、アルテミスに呼び掛け……」
そう言えばルーンも入れるのか?……何故かもう、いた。
「アイアフ!あぅ……えぇ……イスメトゥレア」
あ、今アルテミスって言うの諦めたか?発音が難しかったようだ。
「アルテミス、お願いだ。答えてくれ」
「ネミズィアヒアイウゼドウ」
響いた声はどこかハスキーだが女性の声だ。そしてそれはネフスジエフが口ずさんでいる言葉だ。
「頼む、イェリンにも巨人と戦う力を授けて欲しい」
「イフシュ。イジエウェデイジフシフセフズ、グノグネフセドウォアイン」
「アイアフ」
アルテミスの言葉に訳すようにルーンが続けてくれる。
「受け取らせてくれるのか?」
「アイアフ」
「なら……早速行く?いつ敵が襲ってくるか分からないし、もしあの槍巨人が来るなら……リン以外で応戦できるならゼキだろうね」
「そっか……ゼキなら」
槍の攻撃にも耐えられる。その隙にルチアが戦ってくれれば……!問題は2人の息だけど。
「分かったわ。やるわよ。やらなくちゃいけない。あんなやつでも人類の危機ならやるでしょ」
「その、ルチア。ゼキはその、多分言い回しが上手く出来ないだけで本当は……」
「んもう、何でアンタはそこまでゼキの肩を持つのよ!たまにはガツンと言いなさいよ!」
ぷんすかと去っていくルチアに何て言っていいのか分からなくて。
「……怒らせちゃったな」
「むしろ嫉妬だと思うよ」
「嫉妬……?」
「全く……こうも自覚がないとルチアは大変だな」
「その……どういう?」
「さて。どうだろうね。そこがリンのいいところでもある。私の口からは控えさせてもらう」
「ええ~~っ」
そう言われるとものすごく気になるのだが。
「それに、まずは行かなくちゃ。あの3人、心配だからね」
「それは言えるかも」
俺たちはリュウ兄に許可を取り、アルテミスの神殿に向かうことになった。
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