第3話 巨人の神殿
この休憩室は共有スペースなのだから彼らが入ってきてもおかしくはないのだ。
聞かれたのはまずかったろうか……。
「今、アテナと会話してきたの」
しかしルチアは恐れるわけでもなく堂々と告げる。
「アテナたちは巨人。私たち人間に味方する巨人だわ。そして襲い掛かる巨人に対抗するためには彼女たちの力が必要なの」
こう言う度胸はまさに俺たちを引っ張ってくれるエースならではだな。
「私は私に必要なものを取りに行く。アテナたちはこれからも私たちの仲間だわ。共に戦う仲間なの。何か問題ある?」
「……」
カルマはじっとルチアを見つめ、フッと吹き出した。
「ちょ……カルマ!何よ、私またおかしなこと言ってる!?」
「いいや、言ってないよ。そもそも俺の祖国の最高神は巨大な神として語られる」
今は一神多神言ってられるような状況ではないが、カルマのところは俺たちヤガミ家と同じ多神教だったな。
「神と同じ巨人が味方であってくれたのならありがたい。俺たちにはまだ希望が残されているってことだ。敵に勝利し人類を守ることが俺たちの役目だ。これからもやることは変わらない。ゼキも、いいな」
カルマがゼキを力強く見やる。
「……巨人となるのは俺たちも同じだ」
そう言うとふいと踵を返し行ってしまう。確かにゼキの言うことも確かだ。
神騎と言う巨人の形を借りて俺たちは戦うのだから。ゼキもそれに対しては反対していないってことか。カルマもそう認識したのか、口を開く。
「それで……ルチアは必要なもの……を取りに行くのか?」
「ええ。アテナに教えてもらったの。アテナが見付かった神殿に行くわ。リンと一緒にね」
「それにはリュウガさんの了承がいるだろう。巨人を退けたとはいえ、現状戦えるのはリンのネフスジエフだけだ。2人が抜けるのは痛い。リンも一緒に行かないとダメなのか?」
「それは……行かないといけない気がする」
確証はない。でも……。
ネフスジエフとアテナだけではダメなのだと何かの直感が告げてくるのだ。
「それに、今はリンにしかどうにかできないから取りに行かないといけないのよ。巨人が何体も現れたらどうするの?戦闘により慣れているのは私の方なのよ。だから……アテナから必要なものを受け取って……全速力で戻ってくる」
「確かに……ルチアの言うことも尤もだ。分かった。もしもの時は俺たちで繋ぐ。そのためにひとつ試してくれないか」
「試すって何をだ……?」
「ネフスジエフの力でイェリンの腕の治療を」
何かあった時、イェリンが動ければ少しは凌げるかもしれないから。
「分かった。ネフスジエフ」
球体を展開させイェリンを招く。
「こちら側になら入れるんだな」
「……思えばルチアもこちらに入れたんだ」
俺のネフスジエフはみなをこちらに招け、俺も行ける。
しかしルチアとイェリン、イェリンとカルマなどの組み合わせでは行き来ができない。
「どういう違いがあるんだろう」
「でも……見て」
イェリンがギプスを外し、腕や手を動かして見せる。
「治ったみたいだ。最前線の医療でもまだまだかかるはずだったのに」
これでも向かしに比べたら医療は進歩した。その医療の恩恵はこう言う最前線の基地や重要拠点に限られるが。
無事にイェリンの腕を治し、展開を解く。
「やっぱり……リンのネフスジエフにはそう言う能力があるのか……。だが助かった。基地に動ける神騎が3体になったからな。よし、リュウガさんに話をつけに行こう」
「ああ、カルマ」
早速リュウ兄に話をつけに行けば、やはりカルマと同じ懸念を示した。
「だが……リンの直感も否定できないな」
リュウ兄は本物のネフスジエフと邂逅したことがあるからだろうか。
「リンとルチアが神殿に向かっている間、ルーンにも協力して欲しい。基地の迎撃システムの補佐に」
「アイアフ」
そういやシュミレーターではルチアを抑えて首位を取ってたからな。
「今は敵の襲撃を感知していない。急ぎ神殿に向かってくれ。座標はここ」
リュウ兄が俺の端末に座標を送ってくれる。
「サンキュ、リュウ兄。行ってくる」
「ああ、気を付けてな」
「リュウ兄たちこそ」
俺とルチアは早速神騎を起動し座標点に向かう。
「アテナが見付かった場所……巨人の神殿って名前の遺跡なのよね」
「そうだな、ルチア」
「……ってことはカルマの言っていたような神さま?」
「……思えばそうだな」
まだ俺たちを見捨ててない巨人の神さまが世界にいると言うことか。
やがて神殿が見えてくる。
神騎の飛翔スピードは戦闘機以上と言われる。それでも俺たちが耐えられているのは確実に
「早速入るわよ」
神騎の展開を解き、遺跡の中へ足を踏み入れる。念のため2人とも銃を構えながら警戒しつつも、端末を調べればリュウ兄が地図を送ってくれたようだ。
「このポイントで核が見付かったみたいだ」
「ええ。こっちみたいだけど……変ね、行き止まりだわ」
奇妙な壁画と共に壁が塞いでいる。
「なあ、この壁画の模様、アテナの装甲に似ていないか?」
「……えっ」
搭乗しているルチア自身はアテナの鎧を見ながら戦っている訳じゃないから無理もない。
「もしかしたら……」
ルチアが壁画に手を当てればその核が光輝く。
「核が持ち出されたから閉じた扉ってこと?」
ゴゴゴッと扉が開かれる。
「いや、授けたから役目を終えたんだ。でもまた役目が出来たから鍵になったんだろうな」
「そうみたいね」
2人で隠し部屋に足を踏み入れる。中は屋内なはずなのに真っ白いクリスタルで光輝き、その先に美しい女性が待っていた。ルチアに何となく面影のある女性はアテナの鎧に身を包み、剣を携えている。
「待っていたわ」
「アテナ……なのね」
「そうよ」
見上げるほど大きな3メートルはありそうな女性。
「あなたに力を、私の剣を」
アテナがそう告げれば、彼女が持っていた剣が光の粒子となってルチアの核に吸収されていく。
「巨人に打ち勝つ力を」
「……これで私にも戦えるの?」
「ええ」
「ほかのみんなも、こうやって核の元となる巨人に武器を与えられれば戦えるってこと?」
「恐らくは。でも……」
「どうしたの?アテナ」
「必要なものがある」
「必要なもの?」
「あなたならそれを持っているはずよ」
アテナが俺を見る。
「どう言うことだ?」
「どうしてルチアが最初だったのか……アテナの名前を与えた時のことを思い出してみて」
「それは……ルチアがアテナに名前をつけたって教えてくれたんだったよな」
「ええ。それでリンが『いいんじゃないか?ルチアに似合ってる』って言ってくれたのよ」
「そうね……ルチアが嬉しそうに教えてくれたわ」
「アテナったらっ」
ルチアが照れたように顔を赤くする。
「ふふっ。かわいらしいわね。でも……そのひとつひとつに意味があるの。ほかの神騎たちが力を受け取る資格を得るかはあなた次第よ、リン」
俺次第ってどう言うことだ?しかしその答えを聞き終わる前にアテナの様子が変わる。
「時間みたいね」
「……アテナ?」
「すぐに基地に戻った方がいいわ」
その言葉にハッとする。アテナに礼を言い、俺たちはすぐに神騎を展開し基地に急ぐ。
「大変!またあの女巨人が攻めてきたのよ!それもケモノ型多数!」
「ああ、俺のところにも通信が来た!急ぐぞ!」
「ええっ!」
前方にはけたたましい砲撃の轟音や光閃が激しくなっていく。
「アテナ……行くわよ」
ルチアの神騎に先程のアテナの剣が握られる。
「私はエースよ。誰よりも強く、速く……みんなを守ってみせる!」
ルチアの神騎の特殊能力が展開する。ブースト機能だ。アテナが宙を蹴れば、音よりも速く目標地点に到達する。
「エースを……ナメるなあぁぁっ!!」
アテナの剣が、ルチアの剣が女巨人の鎧を貫く。
「――――――ッ」
女巨人が言葉にならない絶叫を響かせ距離を取る。
「みんな、無事!?」
「何とかね」
カルマの乗るアディティアも、みんなの神騎もだいぶ損傷しているが無事だ!
「それじゃぁルチアとリンは巨人を、俺たちはケモノ型を蹴散らすぞ!」
『了解!』
瓦解しかかった戦況を立て直し、一斉に反撃をしかける。女巨人はアテナと俺の展開するバリア反射で追い詰められた……!これなら……!
しかしその時女巨人の腹を巨大な槍が貫き、女巨人が絶叫しながら朽ち果てる。何だ……これは?
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