ただの高校生の私にスキルが生えてきた話

武藤かんぬき

本編

 ある日。リビングのソファに座ってテレビで配信されているドラマを見ていたら、脳内に『ピコン♪』とメールの着信音のような音が響いた。


「どうしたの、おねえ?」


「いや、今なんか変な音しなかった?」


「変な音? って言われても、そんなの聞こえなかったけど。テレビの効果音とかじゃない?」


 中学3年生になったばかりの妹は呆れたようにそう言って、私に向けていた視線を再びテレビの方に戻した。うーん、もしかしたら空耳だったのかな。そんな風に内心でつぶやきながら小首を傾げつつ、テレビを見る妹に視線を向けた瞬間だった。まるで国民的RPGのメニューみたいな透明な板が私の前に急に現れたのだ。


「んあっ!?」


「もー。おねえ、うるさいなぁ!」


 思わず声をあげてしまった私に、妹がウンザリしたように文句を言った。『ゴメンゴメン』と誤魔化し笑いを浮かべながら謝ると、妹は頬をぷくりと膨らませながらまた視線を画面へと戻す。


 ただ私はもはやドラマなんてどうでもいいというか、それどころではない。この透明な板に目が釘付けというか、目が離せない。


 さっきも例に挙げた国民的RPGには、登場するキャラの能力などを見ることができるステータスという機能がある。どれくらいのHPやMPがあるか、力や素早さなどの能力値はいくつかみたいな情報がひと目でわかる優れものだ。


 それと同じようなものが、今私の目の前に表示されている。名前のところに書かれているのは、間違いなくうちの妹のものだった。



 名前:佐々木ささき 舞衣まい

 年齢:14歳

 性別:女

 職業:中学生


 ザーッと目を通してみたところ、おそらく間違いなくうちの妹のものだ。この下には身長とか体重とか、スリーサイズまで詳細に示されていてちょっと公開するのははばかられるので私の中にとどめておこう……身長は私の方が5センチ高いね、多分見た感じでもそれくらいの差なはず。私も高校1年生にしては平均にはちょっとだけ足りていないので、身長が低い者の気持ちはよく理解できる。


 妹はあともうちょっとで150センチの大台に乗るみたいなので、牛乳を飲んだり豆腐を食べたり頑張って伸ばそうとしている。私も追い抜かされないようにしなきゃ、姉が妹に負けるなんてせつないどころの騒ぎじゃないし。


 そんなことを考えながら視線を下に下げていくと、なんと彼氏の項目があった。そしてその横には『有り』の文字、な……なんだってー!?


「舞衣、アンタ彼氏いんの!?」


 本当に考えるよりも先に口から言葉が飛び出てしまって、もう取り消すことはできなかった。私の言葉を聞いた妹はポカンとした表情を浮かべてから首からジワッと顔全体を真っ赤に染めながら『な、なんでおねえが知ってるの!?』と聞き返してくる。当然だよね、これまで話題にもあがらなかった自分の彼氏の有無を姉である私が知ってるんだから。


 彼氏の話とは全然関係ないけど、こういうちょっと慌てたときの表情とかこの子すごいかわいいんだよね。身内びいきかもしれないけど、『そりゃあ彼氏ができても不思議じゃないか』って感じ。


「彼氏の名前は……あ、これ隣のみっちゃんじゃん。そっか、あんたたちってちっちゃな頃から仲良かったもんね」


「ちょっ、まってまって。こわいこわいこわい」


 彼氏の欄にあった名前は、お隣に住んでいる充弘みつひろくん。おさななじみだし1コしか歳が離れていないから、私も一緒に遊んだことあるしよく知ってる子だった。私に秘密にしていることを言い当てられて、妹が顔を青ざめさせながら自分を守ろうとクッションを自分の前にかざす。いや、そんなものじゃ万が一攻撃されたとしても防御力ゼロでしょ。人間ってパニックを起こすと変な行動をするって聞いたことがあるけど、本当なんだね。


 でも私も逆の立場だったら多分同じ反応をしそう。『おねえがおかしくなった』とかつぶやきながらガタガタ震える妹の姿に、なんだか罪悪感がわいてくる。


「いや、私だって今の今まで知らなかったんだけどさ。ここに書いてあるんだよね」


「……書いてある?」


 人差し指で情報が書かれている透明な板を示しながら言うと、クッションの陰からそっと覗き込むようにこちらを見る妹。


「なんにもないじゃん」


「つまり、舞衣からは見えてないのね」


「……なんでおねえはそんな落ち着いてるの? これって間違いなく異常事態でしょ!?」


「なんて言うかさ、自分より慌ててる人が目の前にいると逆に落ち着くんだって話が本当なんだって、今日はじめて知ったよ。つまりはアンタのおかげで落ち着けてる、ありがとうね」


 私がそう言うと、妹は『おねえだけズルい! 私もとりあえず落ち着きたい!!』と訳のわからない主張をしはじめた。確かに状態欄が興奮になっているから、精神的に負担が掛かっているのかもね。とりあえず妹には深呼吸をさせておいて、私は落ち着かせるためにホットミルクでも作ってあげることにした。砂糖を少し入れたホットミルクが好きな妹は、しばらくして私が持っていったカップに口を付けてコクリと飲み込むと『ふぅ』とホッとしたようなため息をついた。


「好奇心で聞くけど、おねえには何が見えてるの?」


「うーん、ドラ◯エのステータス画面あるじゃん。あんな感じで舞衣の情報がズラーっと出てるの、ちなみにみっちゃんとはまだ深い関係になってないのも書いてある」


「へ、変態じゃん! なんでそんなのわかるの、頭おかしい!! それに百歩譲っておねえにだけそれが見えるとして、書かれてあることがホントとは限んないじゃん!!!」


 最後の方は絶叫するみたいに言う妹に、確かにそうだよねとひとつ頷く。私もまったく知らない他人とか友達にはここまで明け透けに言うつもりはないけど、妹は家族だからね。せっかくだから答え合わせに協力してもらおう。そうすればせめてこの訳のわからない情報が、正しいのか間違ってるのかだけは判るだろうし。


「じゃあ答え合わせに付き合ってよ、そうすれば私が嘘ついてるかどうかわかるでしょ?」


「……ホントは絶対にイヤなんだけど、おねえのために協力することにする」


 去年ぐらいからなんか当たりが強いんだけど、本当は優しい子なんだよね。年が近い姉妹にしては仲がいい方だと思っているけど、本当ならもっとバチバチとした敵対関係になっていてもおかしくないのだから私は運がいいと思う。とりあえず軽いジャブとして身長・体重・スリーサイズあたりを言うと、妹はちょっとだけ微妙な表情をして頷いた。


「こないだの身体測定の結果から少しズレてるけど、大体合ってるね……おねえの言ってる数字がリアルタイムの情報だと考えると、ミリ単位だけど身長伸びてるのは嬉しい」


「多分そうだと思うよ、ご飯を食べる前と食べた後で体重を見比べるとわかるかも」


「それは自分ので確認してよ、私絶対協力しないからね! もし黙ってやったら姉妹の縁を切るし!!」


 おお、妹の目がマジだ。いくら私でもさすがに許可をもらわないと、こんな隅々まで他人の情報がわかる能力使いたくないよ。異世界を舞台にしたライトノベル風に言うならスキルかな、呼びやすいからそっちでいいか。今回妹の情報が見えたのは事故だし、むしろ私自身もいきなりこんなスキルを与えられてちょっと迷惑しているのだから。


 そもそも自分の情報って見えるのかな、その前に妹の情報を見えないようにメニューを閉じないと。消し方すらわからないのでとりあえず『閉じろ』と頭の中で念じると、目の前のメニューはすぐに消えた。そして自分の手をじっと見ながら『情報出ろー』と念じるとすぐにパッと目の前に再びメニューが表示された。『いや、そんなすぐに出るんかい』と思わず心の中でツッコんでしまったわ。


 えっと、さっきまで妹の名前が表示されていたところが私の名前になっているので、間違いなく私の情報みたい。身長や体重もまぁ身体測定の数値とほぼ変わってない。中学の頃は英語部だったんだけど、進学先の高校では文芸部に入った。ただ先輩たちにお願いされて名前だけ貸している幽霊部員なんだけど、ちゃんと部活欄に『文芸部(幽霊部員)』って書かれているのも芸が細かい。


 もちろん彼氏なんていたことがないから、そこには『なし』の二文字があった。あと妹の情報だけ見て自分のは見てみぬフリするのもどうかと思うので確認すると、ちゃんと処女だった。いや、ちゃんとってなんだ。そりゃあそういう経験が一切ないのは自分自身が一番よくわかってるんだから、わざわざ確認する必要もないんだけども。


 スキル欄には『鑑定(看破)』の文字があり、どうやらこれが私が今陥っている状況の主な原因みたい。ただスキルの名前だけじゃ、詳しくはわからないから困るよね。そう考えた瞬間、スキルの説明欄みたいなのが目の前に表示された。スマホとかタブレットみたいに項目に触らなくても次の画面に進めるのは便利だよね、他の人には見えないのに私がスワイプとかしてたら変な人にしか思われないだろうし。


 『知りたいと思った物について詳細に見破ることができる能力』かぁ、物でもいけるのかな? そう思ってさっき持ってきたホットミルクのカップにスキルを使ってみたら、なんと製造した会社まで見えちゃったよ。また脳内で念じてスキルをオフにすると、今度は平常心を心掛けて妹の方を見てみた。なるほど、さっきのははじめて発動したのでちょっとスキルが敏感に反応しちゃったのかな。ちょっとでも見たいと考えるとスキルが起動しそうなので、今後は明鏡止水の心で生活しなきゃいけないのか……すごい疲れそう。


「おねえ! もしかしてまた私の情報見てるんじゃないでしょうね!?」


 まるで裸でも見られているかのように、胸を両手で隠して身をよじる妹。いや、別に私のスキルは透視できるわけじゃないから。それにあんたの裸なんて人生で数え切れないぐらい見てるから。


 過剰反応する妹に、意識的にスキルを使わないことができる旨を伝えたところ、ようやく落ち着いてくれた。しかしこれどうするかね、ぶっちゃけただの女子高生の人生には過ぎた能力なんだけど。せっかくだし何かに使えないかな……お小遣い稼ぎ? ちょっと考えてみようっと。


 これをきっかけに人の悩みを解決したり、果ては刑事さんの捜査を個人的にお手伝いすることになるのだけど、今の私にはそんなことは思いつきもしなかったのである。


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ただの高校生の私にスキルが生えてきた話 武藤かんぬき @kannuki_mutou2019

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