第6話 裁判

 「——おい、ミヒド! 大変だ!!」


 宿のドアが勢いよく開き、荒い息で白髪がある小太りの男が飛び込んできた。

 叔父の ベッルク さんだ。


 「な、何があったんだ、ベッルクさん?」

 

 頭の中にフィンクスの声が割り込む。

 

 「誰だそいつは。説明しろ、ミヒド」

 

 (俺の……叔父さんだ。

 両親が死んでから、ずっと俺を育ててくれた人だよ)


 フィンクスが短く鼻を鳴らす。


 ベッルクさんは、すぐに俺の肩をつかんで叫んだ。


 「お前さんを……紅蓮が訴えたんだよ!

 “突然攻撃された”ってな!」


 心臓が止まるかと思った。


 (あいつら……!!)

 「どこで裁判が」

 教えてもらい考えるよりも先に、体が動いていた。


 宿を飛び出し、石畳を全力で駆ける。

 肺が焼ける。肋骨や足や腕の腕が痛い。

 だが止まれない。


 角を曲がると、巨大な白い建物が視界に入る。

 

 裁判所。


 ■ 裁判所の中

 

 席に座る裁判官が、面倒そうに目を細めた。


 「あなたが出るほどの案件ではありませんよ……

 世界最高の頭脳保持者・ベルセル様」


 ざわり、と周囲がざわめく。


 裁判官ですら頭が上がらないほどの権力者——

 “世界最高の頭脳保持者”という称号を持つ天才、ベルセル。


 その人物が裁判官の横で腕を組み、薄く笑っていた。


 「面白そうな裁判なので、入れてください。

 ——上官命令です」


 堂々と言い放つと、裁判官は慌てて良い姿勢をもっと正し、


 「し、失礼しました!!分かりました」


 と頭を下げた。


 周囲の冒険者やギルド関係者がざわつく中、

 俺は息を切らしながら裁判所の中央へ歩き出す。


 (紅蓮……

 どれだけ俺を潰す気だよ……!)


 フィンクスの声が静かに響く。


 「ミヒド。この状況……利用できるぞ」


 (利用? どういう意味だよ……)


 「追い詰められた者ほど、世界は力を与える。

  ——貴様の“異常性”を、証明してみせろ」


 胸の鼓動が早まる。


 この裁判は——

 ただの冤罪では終わらない。


 

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