第5話 救助

 「君、大丈夫か?」


  柔らかい声が、遠くのほうから響いてくる。


  続けて、少し呆れたような女性の声。


 「しょうがないわね……ダンジョン攻略は一時中止ね」


 (……誰だ……?

 知らない声……パーティー?)


 意識が重く沈んでいた。

 声の正体を確かめる前に、暗闇へ引きずり込まれるように意識が落ちていった。

 

 ■ 覚醒


 まぶたが重い。

 ゆっくりと目を開けると、


 ——ボロボロの天井。

 蜘蛛の巣だらけの木材。

 軋む音を立てる古びたベッド。

 

 (……ここは……どこだ……?)


 息を吸うと、カビのような匂いが鼻をくすぐった。

 体中が痛む。動かすだけで激痛が走る。


 その時、頭の中にフィンクスの声が落ちてきた。


 ■ フィンクスの語り

 

 「気づいたか、ミヒド」


 (フィンクス……?)


 「やはり遅れているな、この星は。

 地球と比べれば、文明があまりにも幼い。

 車すら存在せず、産業革命すら迎えていない——そんな段階だ」


 突然の“地球”という単語に、意識が引き締まる。


 (地球……? どこだそれ……?)


 まるで俺が知らないことを当然のように語る。

 

 「まぁ当然か。この世界は“ポータル”が存在する特異点だ。

 ポータルに入れば、どこからともなく“ダンジョン”へ転移する。

 そしてダンジョンには、尽きることなくモンスターが湧く」


 (……それは知ってる。冒険者なら誰でも……)


 「奴らは必ず“魔石”を落とし、時には素材や“刻印”まで落とす」


 刻印——。

 モンスターが使っていたスキルを一つだけランダムで使える特殊アイテム。

 高級ギルドでもめったに手に入らない。ギフト以外で人間が能力を得る方法

 

 だがフィンクスの声は、そこからが本題だった。


 「だがなぜモンスターの死体が消えるか……」


 その問いは、誰もが疑問に思いながら解けなかった謎。


 「それを知るのは——我ら神々だけだ」


 (神々……? 本当にフィンクスは……神なのか?)


 「さぁ、どう動く。ミヒド」


 声は試すように問いかけた。


 ■ 状況を把握する


 ゆっくり体を起こす。

 呻き声が漏れた。肋骨の一部がまだ痛む。


 (あの男と女……俺を助けたのか?

 紅蓮にボコボコにされたあと……)


 握った拳が震える。


(ペンシル……フィン……セルメロ……

 レインとか言う新人……)


 思い出すだけで、胸の奥が灼けるように痛む。


 だが今はそれより——


 この場所。助けた者たち。

 そして、神の声。


 全てが新しい“始まり”でもあった。

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