Side:アドミラグ
4日目・森林①
***
龍王坂くんの成長速度は、こちらの予想を遥かに上回っている。
指導を開始してまだ一日に過ぎないというのに、その身のこなしには劇的な変化が現れていた。
もっとも、それはあくまで「肉体の運用」という側面においての話だ。
俺が与えた黒曜石のナイフは、すでに彼の手の一部のように馴染み、貧弱だった体力も実戦に耐えうるものへと底上げされつつある。
だが、肝心の【能力】については、未だその糸口すら掴めていないようだった。
掌から生じる【火】――その制御を完遂できなければ、この狂った遊戯に巣食う凶悪なプレイヤーたちの前では、瞬く間に命を散らすことになるだろう。
そうなれば、俺はまた「死ぬ」機会を失う。
それは俺にとって致命的な問題だ。
……いや、そう思うこと自体が傲慢なのかもしれない。
世界は私の絶望を中心に回っているわけではないのだから。
ただ、確信があった。
予感などという曖昧なものではない。俺の【眼】がそう告げているのだ。
この【眼】は、かつて俺が第一回遊戯で頂点に立った際、報酬として手にした代物。
――【運命の眼】。
対象の存在に付随する縁の強さを視覚化し、その者が背負う宿命の重さをオーラとして捉える力。
冥土の淵からこの現世へ這い戻ってきた際も、この呪われた視覚だけは俺の眼窩に焼き付いたままだった。
【運命】とは、未来へ伸びる因縁の糸だ。
その糸が手繰り寄せる先が、救済か、あるいは破滅か。それは【眼】にも判別できない。
始まりは、龍王坂健の名が記された一枚の書類だった。
その紙面に触れた瞬間、【眼】が激しく脈打った。その時、俺は直感したのだ。
「この少年こそが、私という永劫の苦しみから俺を解き放ち、殺してくれる存在なのだ」と。
その推測は、おそらく正解なのだろう。
実際に彼と対面した時、そのオーラは網膜を焼くほどの輝きを増した。
そして――昨夜、俺が【悪魔】の名を口にした瞬間。
彼の纏う光は、さらに禍々しく、暴力的なまでの明滅を見せた。
彼もまた、あの怪物との間に拭い去れぬ因縁を抱えている。その事実はもはや疑いようがない。
だが、それでも俺は、彼に【悪魔】とだけは関わってほしくないのだ。
奴は、ただの「個」ではない。
奴は平然と、俺たちの隣にある日常に溶け込んでいる。
万物を蹂躙しうる絶対的な力を持ちながら、誰に気づかれることもなく、静かに日々の営みの中に潜んでいるのだ。
両親を失って以来、俺はただその真相を突き止めることだけに執着してきた。
しかし、長い年月をかけて辿り着いたのは、【悪魔】という仮初めの名と、奴が「日常の影」に潜伏しているという事実だけだった。
【運命の眼】を欲したのも、ひとえに奴の尻尾を掴むためだ。
この眼があれば、どれほど巧妙に偽装していようと、奴の放つ異質な運命の波紋を見逃すはずがない。
そう、例えばこの広大な森林に奴が潜んでいるなら、一瞥するだけでその位置を特定できるはずなのだ。
だが、見つからない。
奴は決して、その姿を現そうとはしない。
だからこそ、近づいてはならないのだ。
見えない怪物ほど、恐ろしいものはないのだから。
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