魔法学校のすてきな先生
@karatachi23
魔法学校のすてきな先生
「先生、どうしてですか?」
目の前に立っている生徒の冷ややかな視線に、新米教師クリスは屈すまいと決意した。新しい薬の調合を試そうとしている時に呼び出されてイライラするのはわかるけど、こっちも忙しい中で時間を作っているのに。
魔法学校の教師になって数か月、眼の前の生徒オズマは悩みの種だった。クリスが担当している二年生の授業でも、
それを補って余るのが、薬作りだ。市販の薬にはない効果を備えた薬品を短時間で調合する技術は、学校一を誇るばかりではない。大人にとってさえ難易度の高い検定試験も次々と合格している。教師や生徒たちも、薬作りにおいてはオズマを一目置いていた。しかし、このままでは彼人ができることは極めて偏ったものになってしまう。それに、苦手なものを避けるばかりでは、生徒のためにならない。
「先生、私は将来、得意分野の専門職に就きたいんです。その分野の試験だけで入学できる大学もいくつかあります。前期の三者面談で教頭先生にも、変身術の試験を免除する代わりに得意科目で成果を出す許可をいただきました。苦手なものはちゃんと補えているし、できなくても生きていけます。どうして変身術なんか勉強しないといけないんですか?」
「人生には例え嫌でも、やらなけらばならないものがたくさんある。今苦手なことから逃げていると、あなたはこの先ずっとより苦しいことから逃げ続けることになるわよ。せめて試験で30点は取れるようにがんばりましょう」
クリスは、オズマの不服そうに細められた緑の瞳をじっと見つめる。お願い、どうかこの子に伝わりますように。
彼女の落ち着いた、だが真剣な眼差しに、オズマはついに屈した。
「分かりましたよ。やればいいんでしょう?」
次の日から補修が始まった。どうせやるなら他の子たちも見てあげようと、クリスは成績が下から二十番ほどの生徒たちも呼んで放課後に毎日変身術を教えた。わからない問題があると言われたら、夜遅くまで残って教える熱心さだ。
最初オズマは渋々参加していたが、何だかんだ
三ヶ月後の中間試験で、見事にオズマは合格点の三十点に到達した。
「やればできるじゃない!」
オズマは無言でうなずいた。
「このまま続けたら、きっと克服できるはず。次の試験でも点を落とさないようにがんばりましょう」
結局、補修は学期末まで続いた。
学期末、クリスは実家の事情で務める学校を変わることになった。情熱的で親身な若い教師との別れを、受け持っていた多くの生徒が惜しんだ。特に補修を行った生徒たちは、彼女が学園の門を出て姿が見えなくなるまで手を振り続けた。多くの生徒が自分を慕い、感謝してくれた。別れはつらかったが、クリスは幸せだった。
一足先に校舎内へ戻ったオズマは、一瞬のためらいもなく補修で使っていた教材を全てゴミ箱に投げ入れた。そして満足げな表情で新しい薬の調合を試しに行った。
魔法学校のすてきな先生 @karatachi23
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