第12話 晴の年越しそば

冬の夜。シェアハウスの窓の外には冷たい風が吹き、街の灯りが揺れていた。塩見晴は仕事から帰ってきて、コートを脱ぎながらキッチンに向かった。年末が近づき、どこか落ち着かない空気が漂っている。


「今日は俺が作る。年越しそばだ」

 そう宣言すると、米田ひかり、美咲、崇の3人が顔を上げた。


「そば!いいですね」ひかりが嬉しそうに声を上げる。

「映えるかな?具材次第だな」美咲が笑う。

「そばは消化が良く、栄養価も高い。年越しにふさわしい」崇が真面目に言う。


晴は微笑んだ。彼にとって年越しそばは特別な料理だった。子供の頃、家族で囲んだ食卓を思い出す。父が作ってくれた温かいそばの香り、母が添えた天ぷらの音。あの時間が、年末の記憶として心に刻まれている。


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鍋に出汁を張り、昆布と鰹節でじっくりと旨味を引き出す。晴の手際は落ち着いていて、見ているだけで安心感があった。


「出汁は料理の心臓だ。これが決まれば全部決まる」

「さすがですね」ひかりが感心する。


美咲は「俺は天ぷら担当!」と宣言し、海老を衣にくぐらせて油に落とした。じゅっと音が響き、香ばしい匂いが広がる。

「映えも味も両立だ!」美咲が笑う。


崇は真面目に「そばのルチンは血管を強くする効果がある」と解説を始め、ひかりが「もう理屈はいいです!」と笑った。


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そばを茹でる時間が訪れた。晴は真剣な顔で鍋を見つめる。

「茹ですぎると台無しだ。時間との勝負だ」


麺が湯の中で踊り、香りが立ちのぼる。タイマーを見ながら、晴は慎重に箸を動かした。湯切りをして、出汁の中へ。湯気が立ちのぼり、冬の夜にぴったりの温かさが広がった。


「完成だ」晴が静かに言った。


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テーブルに並べられた年越しそば。湯気の向こうに、4人の顔がほころぶ。


「いただきます!」声が重なる。


ひかりが一口すすると、出汁の優しい旨味とそばの香りが広がった。

「美味しい……!心が温まります」


美咲は天ぷらをかじり「サクサク!最高!」と笑う。

崇は真面目に「栄養的にも理想的だ」と頷いた。


晴は静かに箸を進めながら、心の奥で思った。――料理はただの食事じゃない。家族や仲間と過ごす時間をつなぐものだ。年越しそばは、その象徴なのだ。


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食卓は笑い声で満ちていた。外の風は冷たいが、シェアハウスの中は温かい。ひかりは「こういう年末もいいですね」と呟き、美咲は「来年も映える料理を作ろう!」と笑った。崇は「科学的にも継続は力なりだ」と真面目に言い、みんなが吹き出した。


晴はその光景を見ながら、静かに頷いた。――この家で迎える年末は、きっと忘れられないものになる。


窓の外には冬の星空が広がっていた。冷たい空気の中で、そばの湯気と笑い声が、シェアハウスを温かく包んでいた。

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