はじめてきた街

茶村 鈴香

はじめてきた街 出雲

はじめてきた街

在来電車は1時間に2本


はじめてきた街

Suicaで改札は通れない 


はじめてきた街

何か尋ねると人々は

優しいアクセントで

答えてくれる


会いたかった人が 

煙りになってしまう前に

7時間かけてでも

来るべきだった


「出雲に行くの」

「縁結び祈願?」

「まぁそんなとこ」


真新しい墓石の前に立つ

行年 42

気が短かったあなた

それにしたって早すぎる


手を合わせても

言葉が出てこない

ごめんなさいとありがとうと

どうか安らかにと


このまま帰るべきだろうか

「おおやしろくらい見て行けよ」

あなたなら言うだろうか


出雲大社に向かう

晴れわたる参道と樹々の香り

深呼吸して

冷たいけどしっとりした風


お守りはあまり持たないけど

開運のをひとつ

縁結び祈願はまた今度

あなたへの涙が乾いてから


出雲の言葉はおっとりと

柔らかく優しく響く

こんなふうに話せたら

あのまま一緒に暮らせたかな


人を偲ぶ旅でもお腹は空く

出雲だからお蕎麦にする

ちまちまと可愛い割子蕎麦

サービスで小さな白玉が付く


「出雲に帰る、一緒に来る?」

それがあなたなりの

プロポーズだった

すぐに返事が出来なかった


出雲には街明かりがない

夜遊びの好きな私

でも今朝は旅館で早く目が覚めた

ここでは健全な女になれる


「何もないけど、出雲に来る?」

あと1年早く来ていたら


たらればの話

あなたは嫌いだったね

あと2年くらいで涙を乾かして

もう一度来て縁結びを祈るよ


ゆるしてくれますか


たらればの話

あなたが生きてたら

ここへ嫁いでお土産物の

優しい売り子さんになったのに


ゆるしてくれますか


縁結び祈願はまた今度

あなたへの涙が乾いてから












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はじめてきた街 茶村 鈴香 @perumi

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