エピローグ
男が一人、群衆の前でハープの弾き語りを始めた。
「かつてこの国には、『魔物』という恐ろしい生き物が蔓延っていました。山に海に砂漠、どんな所にも潜んでおり、人間を襲って食らうのです。
なぜ、そんな恐ろしい生き物が産まれたのか。それは、自分達の繁栄しか考えず、自然や他の生き物を傷つける人間に、精霊達が怒っていたからなのです。
人々は反省し、自然と共生する道を歩みました。すると、精霊達は魔物を産み出さなくなり、平和に暮らせるようになったのです。だから今を生きる我々も、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、自然を大切にする必要があるのですよ」
ハープの音色と男の声に、集まった人々はうっとりする。そして手に持っていた斧を置き、森から立ち去っていった。男は「ふぅ」と溜め息を吐き、肩に下げた鞄へ目をやる。
「相変わらず厳しいですねぇ、大地の大精霊さん。木の5本や10本ぐらい、切らせてあげてもいいじゃないですか」
「駄目に決まっているだろう! この森の木は、成木するまでに100年以上かかるんだ。一度でも伐採を許せば、あっという間に生態系が崩れる!!」
鞄の中から、非常に苛立った声が返ってきた。
不老不死となったヘスは、大地の大精霊と共に、自然を守る旅をしていた。大地の大精霊は相変わらず封印の箱に閉じ込められており、彼が死の大精霊から授かった、所有者以外視認できない鞄に入れられている。
木を伐採しに来た人々を追い返せたのは、大海の大精霊から授かったハープのおかけだ。その音色を聞いた人間は、演奏者の語りが強く心に響くようになるのだ。
二度目のテュポン襲来後。政府は健全な自然環境があってこそ、安全な暮らしができると国民に説き、資源の採取を必要最低限に留めるよう指示した。すると、効率良く自然の力を駆使する技術が発展し、持続可能な社会が産み出されたのである。
暮らしぶりの改善に、精霊達は魔物を産み出さなくなった。人々は、長年夢見た平和を掴み取ったのだ。しかしその平和も当たり前になれば、こうして間違った行動に出てしまう者も現れる。ヘスはそんな者達を、元いた道へ引き返させる、導き手となっていた。
憤怒する大地の大精霊を宥めすかし、ヘスは次の目的地へ飛び立つ。そこは、かつて魔物が巣くう森と化していた都市で、彼が敬愛していた人物達の故郷だ。現在は、生態系を崩さないよう厳重な区画管理を行い、森の中に人々の暮らしが溶け込んだ町になっている。
町に到着すると、ヘスは人目に付かないよう魔法で姿を透明化し、墓地に降り立った。中央には、一際大きな墓が2基あり、そこへ向かうと手を合わせた。一つは
『ネメア・ヘリクルス』、もう一つは『オリーブ・ヘリクルス』と名前が彫られている。
二人は生前、もう二度と魔物が産み出されない世界を目指して、環境保護に全力で取り組んだ。時には政治に関わる事もあり、今では誰もがその名を知る偉人となっていた。
「ネメアさん、クレタさん、見てますか? お二人が望んだ世界は、俺が存続してみせますよ。言ったでしょう? いつか必ず、お礼をさせてくださいって」
ヘスは二人に微笑みかけた。その時返事をするかのように、二人が眠る墓に光が差した。
「ステータスが平凡すぎる」と言われ、追放された俺。巨乳のお姉さんに引き取られ、楽しくやってます。おかげで覚醒できたけど、今さら戻ってこいなんてもう遅い! @dokuirinokani
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