雨の中の自己像_詩と思想8月号佳作
Nowaki Arihara(有原野分)
雨の中の自己像
雨が降るたびに
皮膚の奥で言葉にならなかった問いがぬかる
む
湿度は忘れたはずの名前を記憶から静かに呼
び出してくる
わたしはいまもあの日のままで窓に映る自分
を見ていた
指先に届くのは沈む余白
落ちる音ではなく
誰かの声が濡れた空気の中でうわずる
「まだ、いたの?」
返事はない
わたしは耳を塞いだ
雨音が細胞に一つ一つを漂白する
靴の裏に貼りついた昨日が歩くたびに音を立
てる
まとわりついて離れない赤い靴
それでもいつか雲の向こうに
わたしはまっすぐ立てるだろうか
伸ばした指先は濡れていく
雨が跳ねながらわたしを象っていく
傘をさせばよかったと
後悔する自分が
浮かび上がっては消えていく
雨の中の自己像_詩と思想8月号佳作 Nowaki Arihara(有原野分) @yujiarihara
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