Addendum to 2nd day『おとなのたしなみ』
Addendum to 2nd day『おとなのたしなみ』 POV.アニムス
「さて――アニマ様。本日は寝る前に一つ、教えておくことがありますですよ」
寝間着代わりのブカブカのシャツをアニマに着せたアニムスは、ベッドの上にちょこんと座るアニマと向かい合っていた。
平時であれば主人である銀磁の部屋の前で、立ったまま充電モードで朝を待つアニムスだが、今日はアニマの護衛のため、客室の一緒のベッドで眠る予定である。
しかし、アニマはそれに納得いっていない様子で、アニムスの話の途中だというのに、見た目の歳相応にどこか落ち着きのなさを見せている。
「アニムス。ギンジと一緒に寝ないの?」
「ご主人様は別室でありますです。『男女七歳にして席を同じうせず』という言葉を知っているでありますですか?」
「知ってる。七歳にもなったら性を意識した行動をすべきっていう言葉」
「流石でありますです。であれば、一緒の部屋で眠れないことは納得できるのでは?」
「でも……好意を抱いているなら、一緒に生活した方が良い気がする」
「確かに、そうでありますです。待つだけの女に男は振り向かない、獲物に対しては常に隙を狙う目を向け続けるべしとは、開発者様もおっしゃっていたことでありますです。アニマ様の考えはとても正しい」
しかし、と、アニムスはアニマに対してベッドの上で機械足を器用に正座させて言う。
「それは相手の好みを押さえたうえで行動することが前提なのでありますですよ、アニマ様」
「好み? ……ギンジの?」
「その通りでありますです。まぁそもそも、アニマ様の『好意』が一体どんな分類のものであるかもわからないでありますですが……」
アニムスの言葉の意味を、アニマはよく理解していない様子で首を傾げる。それに、アニムスは『おそらく異性に対しての好意ではないだろうな』と思った。
しかし、しかしである。
その程度の心の分類すら出来ていないアニマであっても、女は女。
そしてアニムスは奉仕の心を宿した(?)メイドロボである。
アニムスはメイドロボとして、少女に女として異性へのアピール方法を教える意欲が抑えられなかった。人でもロボでも、心とは抑えが利かない時があることに変わりはないのである。
人はそれを余計なお世話と言ったりするのだが、そのことを指摘する人間は残念ながらここにはいない。
「まず、アニマ様に理解していただきたいのは――ご主人様は女性に対する免疫がない、ということでありますです」
「……女の子に触れると免疫が落ちるなんて、聞いたことがないけど……」
「そういう意味ではないでありますですよ。簡単に言えば、女性と接するときに挙動不審などを起こす確率が高いということでありますです。格好つけることでどうにかしているフシはありますですが、それも完ぺきではないように思うでありますですね」
「そういえば、ギンジ、アニムスにもドキドキしてた気がする」
「そうでありますです。ずっと一緒にいるワタシに対してもそうなのでありますですから、初対面の女性に対してなど……予想がつくのではないでありますですか?」
そして、と。
アニムスはここからが大事なところだと、ゆっくりと言い聞かせるようにしてアニマに言った。
「そういった男性は、基本的に積極的な行動に出られるのが苦手なのでありますです。同衾などもってのほか、ワタシも同衾はご主人様のメンタルによくない影響があるとして基本、禁じ手としているでありますですから」
「そうなんだ……!」
へぇ、と感心した声を漏らすアニマ。ここ一日で随分と表情豊かになったものだと思いながら、アニムスは頷き、さらに余計な『アドバイス』を続ける。
「であれば、ご主人様に対して自身の好意を示すのであれば、強襲こそが最適解。隙を突いて刺激をぶち込み、ネガティブなイメージを残さぬうちにアピールしてやるのでありますです」
「アニムスも、してるの? そういうこと……」
「たまにでありますですが。たまに刺激を与えてやらないと、ホントにご主人様の女性への免疫が底をつくでありますですから」
「じゃあ、ギンジのこと、好きなんだ。一緒だね」
あっけらかんとした様子で言われ、む、と珍しくアニムスは言葉に詰まった。
ただ、気持ちに嘘をつくほどの理由もない。
口元を緩めると、銀磁とは違い丁寧にアニマの頭を撫でながら、格好つけの相棒を思い出して言う。
「そうでありますですな。ご主人様は相棒であり……家族、でありますですから」
アニムスの言葉に、アニマが『あ』と声を漏らす。それにアニムスは首を傾げたが、アニマは『なんでもない』と言って、嬉しそうにも楽しそうにも見えるようにわずかに緩んだ口元を、両手で押さえていたのだった。
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