第17話 藤が丘学園看護科のバスを尾行しよう
「さて」
ひよりさんの乗ったバスが藤が丘学園の校門を出たのを確認した僕は、レンタカーを発進させる。
『うぅ、居心地悪いです~。寂しいです~。あ、バスのナンバーと予定走行ルートはこちら』
「うんうん、ちゃんと着いていってるよ」
ぼやきつつも、やることやってるひよりさんに思わず口元が綻ぶ。
『できれば、追い越し車線でずっと並走してください~』
「いやいや、さすがにバレるでしょそれ」
それ以前に、後ろの車に迷惑だし。
『うう~』
バスの中でボッチを堪能するひよりさんとは、メッセージアプリでやり取りしている。
『ボッチじゃないですっ! ぶぅぶぅ』
カーナビの位置にセットした、音声入力モードのスマホに抗議のメッセージとブタさんスタンプが表示される。
うん、不憫なひよりさんも可愛いよね。
『まさかの特殊性癖!?』
「ははっ」
ひよりさんとのトークを楽しみながら、クルマを操る。
この辺りは片側三車線とはいえ、クルマの数は多い。ひよりさんの乗るバスを見失わないよう、付かず離れずの位置をキープする。
『えっと、最初の休憩は足柄サービスエリアだそうです』
「ん、了解!」
僕はひよりさんの先回りをするべく、アクセルを踏み込むのだった。
*** ***
「はえ~、すでに激疲れなんですけど」
「はは、お疲れひよりさん」
彼女のために買っておいた、ソフトクリームを手渡す。
「やった~♪」
さっそくぱくぱくと食べ始めるひよりさん。
藤が丘学園の修学旅行バスは最初の休憩地である足柄サービスエリアに到着しており、周囲はセーラー服姿の生徒たちでいっぱいだ。
「ふぅ、着けてくる人はいませんよね?」
ソフトクリームを食べ終え、きょろきょろと周囲を見回すひよりさん。
「ここは周囲より高くなっているからね。大丈夫だと思うよ」
僕たちがいるのは、ウェルカムゲート外の駐車場。
こんなところまで来る生徒はいないだろう。
「次に会えるのは、夕方ですか」
うんざり、といった表情を浮かべるひよりさん。
「そうなるかな。
ひよりさんたちの最終目的地はあの豪華温泉ホテルか。さすが藤が丘学園だね」
今から向かうのは、伊豆半島に貼る一大温泉地。その中心に立つ最高級ホテルが、
ひよりさんたちの今宵の宿だ。
「修学旅行費、馬鹿になりませんでしたよぉ」
他の生徒とは違い、ひよりさんは三年次に編入して来たのだ。
修学旅行費の一括払いは、かなり大変だったに違いない。
「……パパとママの遺してくれたお金、無駄使いしたくないのに」
ぽつり、と漏らされたひよりさんの独白に、胸の奥がキュッとする。
「修学旅行が終わったら、美味しいもの食べよう。奢るよ」
「!! ホントですか!」
ぱあっ、と笑顔になるひよりさん。可愛い。
幾らでも奢りたくなる。おかわりもいいぞ。
「それじゃ、今日の晩御飯は?」
「今日の晩飯は、ホテルの夕食でしょ。 まあ、自由行動があるみたいだから、その時に」
「はいっ♪ それじゃ、また後で」
そろそろ休憩時間も終わりだろう。バスに戻るひよりさんに手を振る。
「さて、僕も出発するか。早めにチェックインしたいし」
僕の宿は、同じ温泉街にある大衆旅館。ひよりさんのホテルとは一泊料金が三倍くらい違うが、安月給の身ではこれ位が限界である。
とんっ
「おっと」
少し下を向いていたせいか、建物の陰から出てきた人と軽くぶつかってしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
慌ててその人に声をかける。
「いえ~、こちらこそよそ見をしていたので~。すみません~」
のんびりとした返事が返って来た。
ぱたぱたとこちらに手を振っているのは、ひよりさんと同じくらいの年頃の少女。
青色のセーラー服を着ていて、もう6月も末だというのにカーディガンを羽織っている。
(んっ?)
ひよりさんが来ている看護科の白セーラーとは違うが、校章の形が似ている。
別の学科の子だろうか。にしては、こんな所にいるなんて。この先にはトイレも売店もない。
「いや~、ちょっと道に迷ってしまいまして~」
ポンポンと頭を叩いた少女は、バスの駐車場がある方向に向き直る。
「ふんふん~♪ なるほど」
去り際、ちらりと少女がこちらを見る。
のんびりとしたグレーの瞳が、やけに印象に残った。
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