第16話 (ひよりサイド)修学旅行の朝

「はい、点呼が終わった班からバスに乗り込んでください!」


引率の教師がハンドマイクを持ち、生徒たちを大型バスに誘導していく。


「はぁ、ついに始まっちゃった……」


学生の一大イベントである修学旅行。

ただ、編入して二カ月弱のひよりには中々しんどいイベントで。


「あれ、あんな子いたっけ?」「ああ、麗奈さんの下僕って噂よ」

「うわ~、かわいそ」「まあそのお陰で、ウチらが平穏なんだけど」「麗奈さん、なんで看護科に並行所属する事になったんだろ」


同じ看護科の子たちに噂されている点は問題ない。

何しろ故意にボッチを貫いてきたのだから。だけど。


「あれが麗奈様の新たな下僕になったという新参者?」「田舎から出てきて、5月に編入したらしいよ」「はぁ? タダのヤブイヌじゃない!」「そのうち、弱みを握って今の地位から追い落としてあげるわ」


(おぅふ)


麗奈の取り巻きとおぼしき、特進科の子たちから敵意を向けられているのはよろしくない。あの中からひよりの素性を調べる人間が出てくるかもしれないのだ。


(い、胃が……)


幾ら涼くんにサポートをお願いしたとはいえ、出発前から倒れそうである。


「ん、ひよりん。だいじょうぶ~?」


思わずよろけたひよりを、一人の女子生徒が支えてくれた。


「帆乃佳ちゃん」


青いセーラー服を身に着けた少女の名前は、神谷 帆乃佳かみや ほのか。ひよりが編入してから初めて出来た友人……というか唯一の親友である。


「あ~あ~、ああいう親のカネと地位だけでえらそげぶってるエセ上級は、一人残らず滅びればいいのにね~」


「ほ、帆乃佳ちゃん! 聞こえるよ?」


「え~、そんなの気にしないよ~」


ひよりより、さらにのんびりした口調で話す帆乃佳ちゃんは普通科所属。

少し青みがかり、腰まで伸ばした艶やかな黒髪は、どこかミステリアスな印象を周囲に与える。


そのビジュアルとのんびりした口調、話す内容の過激さなどすべてのギャップが凄い親友である。


「よ~するにぃ、ああいう既得権益の権化みたいのを~ぶっ潰すためにホノはここにいるんだし~」


「あ、あはは」


過激なことを言う帆乃佳ちゃんのご両親は新進気鋭の政治家らしく、『この学園にはポンコツ上級どもの偵察に来たんだよ~。雑魚ばっかだね!』とひよりの前で毒を吐きまくる、かなりぶっとんだ子だ。


「ひよりんの事、応援してるからね~」


ひよりの肩をポンと叩くと、普通科のバスの方に向かう帆乃佳ちゃん。

普通科の修学旅行コースは1日目の宿は同じものの、2日目は研究施設、3日目は富士山に行く看護科とは異なり、近くのテーマパークに行くらしい。

絶叫マシンが好きなひよりは、少し羨ましく感じていた。


「ふぅ、いつも帆乃佳ちゃんは過激なんだから」


自分の事は棚に上げて、独りごちるひより。


(でも、帆乃佳ちゃんのお陰で)


彼女はご両親の影響でネットや外国に広い人脈を持ち、普通なら手に入らない食材を手に入れてくれる。

ひよりが藤が丘学園に編入を決めたのも、1年半ほど前にネットで知り合った彼女の存在が大きい。


(なんといっても)


彼女はひよりの素性を知っている、唯一の『お友達』だ。


『ふふ、上流のクソ利権は、全部ぶっ壊しちゃるよ~●●ちゃん』


ひよりの本名も、事件のあらましも。全部知っている戦友なのだ。


「……よし」


涼くんのサポートと、帆乃佳ちゃんの人脈があれば必ず復讐を遂げることが出来る。

ひよりはぐっとこぶしを握ると、自身に割り当てられたバスに向かう。


「とはいえ、現地まではボッチなんですよね」


特進科所属でもある麗奈は、今日は学会(?)のイベントに出ているらしく現地集合だ。


「今日のお宿まで3時間半くらい……涼く~ん」


目的地に着くまで、メッセージアプリとにらめっこすることになりそうなひよりであった。

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