第3話 二人組
土曜日の夜に日課の散歩をしていると、男女の二人組をたくさん見る。私がいつも座っているベンチにもそうした二人組が陣取っていて、何やら親密に話し合っている。私は思わず自分の状況とそれを比べてしまう。私は孤独に散歩するしかなく、話したり、くっつき合ったりする相手などいない。彼らの幸せがいいものであると同時に、彼らの不幸もどこか望んでしまう。
私はそそくさとそこを離れ、いつも行っているカフェへと向かう。カフェで楽しむくらい私でもしてもいいだろう。しかしカフェでも状況は同じで、二人組が楽しげに会話している。私はおいしいケーキとコーヒーを食しながら、その会話を聞くとなく聞く。
私はそうしながら、人のあり方について考える。人は本当にそれぞれ違う。私とあの二人組たちの間には大きな差異がある。ただ、その中に共通点を探すのが理性的なやり方だろう。また、彼らになくて私にあることもあるだろう。私はこの店のケーキとコーヒーのよさを知っている。
そのうち、ケーキとコーヒーがなくなってしまう。私はやることを失い、会計を願い出る。1200円がなくなる。私は寂しく出入口のドアを押し開けて、外に出る。外ではイルミネーションが始まっている。そこでも男女の二人組が親密に何やらやっている。私はため息をつき、帰ることを考える。今日も散歩が終わってしまう。
しかし散歩の最終盤に大きな事件が起きる。いつも使っている地下鉄が止まってしまったのだ。私は歩いて帰るか、タクシーを使うか、ここに留まるかといろいろ考える。地下鉄の駅では人が多くいて、どうするかを思案しているようだ。歩くのも嫌、金を使うのも嫌、ここで二人組に囲まれるのも嫌で、結局、私は24時間営業のバーに向かう。もう今日は酔ってしまおうというわけだ。
着いてみると、バーには意外にも客がいない。土曜の夜なのになんとも寂しい限りだ。ただ、二人組に疲れている私にはちょうどよく、スタッフと話しながら夜を過ごす。そして知らぬ間に眠ってしまう。朝、目を覚ますと、私は路上に裸で倒れている。つまりはもう世界は終わりということなのだ。私はとりあえず下着を買いにコンビニに向かうことにする。コンビニでは疲れた早朝のスタッフが疲れた声で悲惨な私を迎えてくれる。通報しないだけ、良心的だろう。しかし、と私はそこで考える。お金がないのだ。私はしかたなくそのスタッフに事情を説明する。スタッフはそこでようやく私の裸に気づいて、何やらバックヤードに向かう。
十数分後、警察がやってくる。私はやはりかと思いながらもホッとする。これでようやく仲間のところに行けるのだから。
ポイ捨て 熊笹揉々 @madouarmer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ポイ捨ての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます