第47話 この鼓動と高鳴りは
七回 —— 0-1
両チームとも、点が取れないまま七回まで進んだ。
ポツ、ポツと散らばったヒットはあるのに、
あと一本が出ない。
スコアは——
**0 - 1**
ただの“1点”なのに、
この試合では異常なくらい重く感じた。
俺の守備は順調だった。
ゴロ、フライ、併殺コース。
全部落ち着いて処理できていた。
だけどひとつだけ、
ずっと脳裏に突き刺さってる存在がいた。
相手の怪物。
一番ライト、和賀 我久。
三打数三安打。
本気で打球の音が違った。
スイングの軌道、体の使い方、打席の雰囲気——
全部が中学生離れしている。
(……あの人が点を作ってる。やべぇってマジで)
守備の時、内野手全員の背中がピンと張る。
あの打球速度は、本気で怖い。
---
七回表 ——
六番先輩がライト前ヒット。
まだ終わってない。
七番先輩は三振。
八番先輩はショートゴロ。
でも——六番先輩が盗塁を決めて二塁!
ツーアウト二塁。
(……来た。俺だ。)
バットを持つ手に汗がにじむ。
投手を見る。
足の高さはわかる。
球種の読みもできてる。
“読めてるはずなのに打てない”
そんな試合だった。
打席 ——
初球。
ピッチャーの足、低い。
ストレート——
カッ。
ファウル。
二球目。
足が——高い。
(変化球……!)
来たのは——ストレート。
(嘘だろ!?)
慌てて合わせたバットの軌道は狂い、
ふわりと上がった。
——キャッチャー後方。
球はポトリと落ちず、
捕手のミットに吸い込まれた。
「バッターアウト!」
俺の打席は、
キャッチャーフライで終わった。
(球威……上がってた。尻上がりかよ……)
ベンチに戻りながら、
唇を噛むしかなかった。
---
七回裏 ——
二死ランナーなし。
ここを抑えれば終わる。
でも、最後の打者は——
**和賀 我久。**
(……来た)
和賀の視線はずっとセンターの方向。
たぶん、打球のイメージを作っている。
ピッチャーがセットに入り——投げた。
カンッ!
“音”の瞬間でわかった。
(ヤバいっ——)
強烈なライナー性の打球。
ピッチャーが反応したが弾かれ、
そのままセンター方向へ転がる。
普通ならセンター前ヒット。
それで終わり。
でも——
(違う。俺は……あの日のままじゃ終わらねぇ。)
体が勝手に動いた。
前へ。
斜めへ。
体が浮き上がる。
グラブを伸ばした瞬間、
時間がゆっくりになった。
(届く……!)
——バシッ!
土の上で体を滑らせながら、ボールを掴んだ。
**ダイビングキャッチ。**
(まだ終わってない……!)
起き上がる勢いのまま、
体をひねり、半分跳ねるように投げた。
——ジャンピングスロー。
白球は一直線に一塁へ。
ファーストの田中先輩が、
その球を伸びきって捕る。
「アウトォォッ!!」
審判の右腕が空を切る。
俺はその場に倒れ込んだ。
(……取った。
あの日の続き、やっと返せた。)
ベンチから歓声が上がる。
黒木がグラブを叩きながら叫んでいる。
「なぁぁぁーイス斎木ぃ!!」
胸が熱くなる。
悔しさも、痛みも、全部吹き飛んだ。
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