第46話 駆け引き
二回表 ——
二回、攻撃の先頭は六番の先輩だった。
相手投手のフォームの癖、
足の上がりがストレートと変化球で微妙に違う。
(見ればわかるのに……なんでこんなに抑えられてるんだ?)
六番先輩はその変化球にタイミングを外され、
三球三振。
「ちっ……くそ、落ちるの早すぎるって……」
悔しそうに戻ってきた背中を見送りつつ、
俺は次のバッター、川越を見る。
七番・川越 ——
川越は一年の中でもしつこいバッティングが持ち味だ。
初球ファウル。
次もファウル。
追い込まれてから——
カンッ。
ライト前。
力ではなく“間”で運んだ当たり。
「よっしゃ川越〜!」
ベンチが一気に明るくなる。
(一つ繋がった……!)
ランナー一塁。
八番 ——
続く八番は、積極的に振りにいくタイプ。
だけど相手ピッチャーの緩急に対応できず、
ボテボテのゴロ。
「二塁フォースアウト!」
川越が一瞬悔しそうに拳を握る。
でもスライディングの勢いは良かった。
ランナーは入れ替わり、
俺の打順が回ってきた。
バッターボックスへ —— 土、視線、心臓の鼓動
名前が呼ばれた瞬間、胸が跳ねた。
(来た……!)
ゆっくりと歩き、
白線をまたぐ。
土の匂い、
金属バットの感触、
ベンチとスタンドの視線——
全部が久々の“野球の世界”だ。
ちょっと離れたところに、
ほのかたちの姿が見えていた。
でも“気づいてないふり”をした。
恥ずかしい。
そんな微妙な気持ちが胸で混ざる。
配球の読み —— 足の高さ
相手投手のフォームを観察する。
足が高く上がる時——変化球。
低い時——ストレート。
(完全に読めてる……あとは打つだけだ)
深呼吸し、構えた。
初球ストレート。
見逃し。
(やっぱり遅い。せいぜい100……なのに抑えられるのは緩急か)
二球目——
足が高い。
変化球。
見送るとボール。
(よし……カウントは悪くない)
三球目——
足が低い。
ストレートだ。
腰が自然に回り、バットが走る。
パシィッ。
白球がふわりと舞い、
ライト前へ——ポテン。
「ナイスバッティング!」
ベンチの声が耳に刺さるほど響く。
俺は一塁に立ち、
帽子の中の汗を指で拭った。
(繋げた……! ここからだ)
ランナー視点 —— 下貝塚先輩の打席
一塁:俺
二塁:大泉先輩
打席には一番・下貝塚先輩。
ストレートに押され、
あっという間に二ストライク。
(やばい……追い込まれた)
その瞬間、監督がサインを出す。
——セーフティーバント
(来た……ここ勝負だ)
腰を落とし、
スタートの準備をする。
バント! —— 全力の一瞬
バチッ。
小さな音と同時に、
俺も大泉先輩も全力で走った。
二塁へ、
そして三塁へ。
「アウト!」
一塁はアウト。
でも——
「セーフ!!」
俺は砂を巻き上げながら二塁へ滑り込み、
大泉先輩は三塁へ。
送りバント成功。
ツーアウト二、三塁。
藤波先輩の打席
スリーボールノーストライク。
(押し出しか……?)
そう思った瞬間、
藤波先輩はバットを出した。
カキーン!
「マジか!?」
センターへ高く舞い上がる。
(落ちろ……!)
だけどセンターが追いついた。
——アウト。
「チェンジ!」
俺は三塁手の横で止まり、
帽子を深く押し下げた。
(惜しい。けど……悪くない)
息を強く吐きながらベンチに戻る。
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