第23話 重なる試合

バッティング週が進む中――

金曜日の昼休み、監督から一年全員に告げられた。


「今週の日曜、新川中一年生だけで“富士ヶ丘中”と練習試合を行う。

選抜メンバーは明日までに発表する。」


一年が一気にざわめいた。


「うわ、マジかよ!」


「新人戦の前哨戦じゃん!」


黒木は勝ち誇ったかのようにニヤッと笑う。

「よしっ……アピールしようぜ斎木!」


斎木:「(いや、俺はまず打てるように……)」


そんな中、

スマホに一つの通知が届く。

藤本南部シニア:今週日曜、練習試合あり。9時集合。


……時刻を見て、息が止まった。

(新川中の試合と……同じ時間帯じゃん……)

最悪の重なり方だった。




頭の中がぐるぐるして、

全く眠れなかった。

(どっちに出ればいい……?

シニアは元々俺が所属していた場所。

でも、新川中の試合は野球部として初の実戦。)


胸が苦しくなる。


そんなとき――

宇治からグループLINEで「日曜のオーダー案」が送られてきた。

それを見て、思わずスマホを握りしめた。

(俺、レフトの候補に入ってる……)

悩んだ末、宇治個人にLINEを送る。




斎木:

なあ……日曜日の試合ってさ、

一年も全員参加?


数分後、既読がつく。


宇治:

ああ。多分控えも出番あるぞ。

なんかあった?


斎木は一瞬迷ったが、正直に打ち明けた。


斎木:

その日、新川中でも試合あるんだ

……どうしたらいいかわからない。


少し間が空く。

既読は付かない。

胸がざわつく。

(変な相談だったかな……)


――そして5分後。

宇治:

おまえはどうしたいん?

シニアでも、新川でも。

楽な方じゃなくて“本気の方”で選べ。

心臓がズキッとした。

(楽な方じゃなくて……本気の方。)


さらに通知。


宇治:

俺はどっちでもええよ。

晃大が選んだ方で応援する。

だから胸張って進め。


思わずスマホを握りしめた。

(宇治……)


背中を押された気がした。




布団に顔をうずめる。

(本気の方……か)

新川中で強豪の練習に耐えて、

初めて掴んだAチーム。


でも――

シニアの仲間と戦った夏の決勝の悔しさ。

花王先輩の背中。

黒木のホームラン。

宇治と泥まみれで守ったあの日々。

全部が重くのしかかる。

(どっちも……俺の野球だろ……)

目の前にウィンドウが現れる


【デイリークエスチョン】

・素振り3000回

・壁当て60分

・チューブトレーニング10分

“逃げるな”と言われた気がした。

斎木は静かに玄関のスパイクを手に取り、外へ出た。

冷たい夜の風が頬に刺さる。

(やるしかない……)

素振りを始める。

竹刀のような音が夜空に響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る