第22話 バッティング練習

外野守備の週、

投手練習の週を経て――

今週はついに一年生バッティング強化週間に入った。


放課後、ケージの前に一年生が整列する。

山根監督がバットを肩にかけて言った。


「打撃はな、才能だけじゃない。

フォームと反復と、何より“考える力”だ。

一球一球の意味を考えろ。」


ケージ横では黒木が

ニヤッと笑ってバットを握りしめていた。


監督の一声で、黒木が一番手としてケージへ。


「じゃあ行きます!」


ピッチングマシンが唸る。


カンッ!

外野の奥まで飛んでいく低弾道ライナー。


次の球。

カッキーン!!

レフトフェンス直撃。

ボール拾い担当の一年が思わず叫ぶ。


「またフェンス!?黒木くん待ってくれよ!!」

しかし黒木は止まらない。


三球目、四球目……

全部長打クラス。


「おいおい……中学生でこの火力かよ」


高梨が呆れた声で言う。


(わかってたけど……やっぱ黒木、異次元すぎる)


最後の球は――

カキィィン!!

レフトスタンド後方のネットに突き刺さる。

ボール拾いの一年が泣きそうな顔で叫ぶ。


「黒木くん!!ちょっとは優しく打てよぉ!!」


黒木:「ごめんごめん!つい調子良くて!」


監督も苦笑している。

「……まぁ、長打はチームの財産だ。続けろ。」




次が斎木の番。

(打撃か……俺、一番苦手なんだよな)

ケージに入ると、黒木や高梨が後ろで見ているのが分かる。


緊張で手汗がすごい。


マシンの第一球が来る。

ストライクゾーンど真ん中。

斎木、空振り。


「おいおい、大丈夫か晃大~?」


黒木が笑いながらつつく。

(うるせぇ……)


二球目。

ファウル。後ろに飛ぶ。


三球目。

詰まったゴロ。

監督が腕を組んで言う。 


「斎木、振り遅れが明らかだな。

ピッチャーやるにしても、バッティングは絶対必要だぞ。」

(わかってます……)


ボールを転がすたび、心が少し沈む。



残り一球。

(せめて前に……飛ばせ……)

マシンの瞬間、体が自然と反応して――


カンッ!


ライナーが一塁頭上を越えた。

長打ではない。

派手でもない。

ただのシングルヒット。

でも一年たちはざっと沸く。


「おっ、ナイスバッティング!」


「当てたじゃん斎木!」


黒木も嬉しそうに笑う。


「やっと当たったなぁ!でもいい感じだよ!」


監督も静かに頷く。

「球の見方が少し良くなってきたな。

素振りを毎日続けていれば、必ず変わる。」

(……よかった)

小さく息を吐いた。




帰宅してデイリークエスチョンを終えると、

今日の練習データが自動で反映された。

【経験値+8】

【ミート:19 →20】

(……少しずつでも伸びてる)

疲れているはずなのに、

体の奥にほんの少しだけ熱が残っていた。

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