第15話 待ってる
ジュードが落ち着いたので、クリストファーは結婚の許可を得に家に帰ることになった。
よく晴れた朝だった。ホテルのレストランの、教会のように高い所まである窓から暖かい朝日が差していた。
連れ立って朝ご飯を食べた。バターを塗ったトースト、オムレツ、サラダ、果物とミルクとコーヒーがジュード。
トーストに目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、ベイクドビーンズと焼いたトマトとマッシュルーム、紅茶がクリストファー。
港町は色んな国の朝ご飯の用意がある。ジュードはクリストファーの筋肉は朝ご飯で作られるんじゃないかと言って笑った。僕も鍛えないとなぁ……。
「君のそんな笑顔がしばらく見れないのが残念だ。できるだけ早く帰ってくるよ。ホテルの部屋は二月いっぱいまで借りてるから使って」
そのまま、また、矢継ぎ早に、
「心配だから、できるだけここにいて。側にいたら守ってあげられるのに。ほんとすぐ帰ってく……る……」
その早口の口上に、ジュードがコロコロ笑ったので、話は途中で終わった。
「君の笑顔が好きだ」
食事が終わって一度部屋に戻って身支度をした。二人とも一緒に部屋を出るはずだった。
「待っていて……」
クリストファーが出口でジュードにキスをした。
ジュードは返事にならず、長いキスになった。
「行こう」
荷物を持ち、先に部屋を出て行こうとしたクリストファーの背中に縋りついて、ジュードが声を出さずに泣き出した。その涙を拭うのに、クリストファーはハンカチを渡した。
「泣かないで。笑ってよ」
不恰好な笑顔で見送った。
家にいた時は、小さな子供の頃でもどんな目に遭っても泣くことはなかった。愛されて僕は弱くなったのかな、とジュードは思った。
一人でいるのが怖くなったらどうしよう。
「無い」時より、少しでも「ある」方が、無くすのが怖いものだなと思った。
職場のレストランへ行くと、もういつもの忙しさで気は紛れた。
「アビゲイルを迎えに行ってくるから、ナサナエルをお願い」
夕方の営業前にジュードは赤ん坊を託された。かれこれ四ヶ月近い赤ん坊、ナサナエルは標準よりやや大きく、順調に育っていた。
ただ、今日は虫の居所が悪いらしく、ずっとむずかっていた。ロザリーも二人目とはいえ、流石に疲れていた。
「きゃあ……」
ナサナエルはジュードに抱かれると、ご機嫌な声を出した。
「えー、もう信じられない」
ロザリーが不満げな声を出す。
「ロザリーが疲れてるから、ナサナエルもなんか不安だったのかも知れないですね、きっと。ゆっくり、アビゲイルと散歩してきてください」
ジュードはスリングでナサナエルを片抱きして、子供部屋の片付けをした。ロザリーより、手の大きなジュードの方が安定感があるのか、ナサナエルはすぐ眠ってしまった。このくらい育ってくると、抱っこしていても心配なくていいな。生まれたては落としそうで、ベビーベッドから抱き上げられなかったもの。子育ての勉強というか、練習になってありがたいな。
自分の子供を想像してみたが、気恥ずかしくなってやめた。それでも、愛されなかった自分が子供を愛せるのかという不安は無くなった。自分と愛する人の子供なら、きっと愛せる。そんな自信が湧いていた。「愛」は「愛」を産むんだな。
しばらくして帰ってきたアビゲイルとロザリーは、二人ともどこかで砂糖菓子を食べてきたらしく、頬にキラキラのカケラを付けていた。
少しお昼寝してご機嫌なナサナエル。
アビゲイルとロザリーはイタズラっぽく、
「ジュード、ありがとう、大好き」
ジュードがアビゲイルから頬にキスされた。少し甘い香りがした。
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