第28話 肉まんを巡る双子の姉妹喧嘩

「私、水汲んでくる。」


レイは立ち上がった。


「あたしのも!」


と魔王は頼もうとしたが、レイは聞かず、素早い足取りで遠ざかって行った。


「え!早っ!今の聞こえなかったんだよね。もし無視されたんじゃ…」


魔王の表情は悲しくなった。


「そんなことありません。レイさんは元々動きが早い方なのです。」

「そうなの?仕方ないね。あたしも汲んでくる。セナちゃんも要る?」

「少々お待ちください。行かれなくても宜しいでしょうから。」


魔王がセナに振り向こうとした時だった。すでに厨房から戻って正座しているレイの姿が見えた。そして魔王の手にはもう水いっぱいのカップが持たされていた。


「いつの間に!」


魔王は驚いて水を零しそうになったがなんとか持ち直した。


「喉乾いたでしょう?」


レイはカップに口をつけた。


「ありがとう!レイちゃんって優しいね。」

「頼まれると面倒くさいから前もって動いただけよ。」


すでに水を貰っていたセナは微笑みながらレイのことを褒めたたえた。


「レイさんは些細なことまで気を配ってくださいますので大変力になります。」

「でも仕事はいつもセナちゃん一人でしていたじゃん。レイちゃんは昨日初めて見たし。」


魔王は疑い深い目でレイを見た。


「レイさんは仕事が発生する前に終わらせてしまいますので誰にも気づかれない傾向があります。」

「目立つのは嫌だから。人に話しかけられるのも苦手。今日だって静かに過ごしたかったのに、気に入らない。」


セナはレイの機嫌をうかがって謝った。


「申し訳ありません…」


だが、魔王は空気を読まず、元気に言った。


「昨日割れた壺を片付けてくれたのもレイちゃんだよね!ありがとう!」


レイは冷たい目で魔王をちらりと見て、饅頭をかじった。


「なんの壺?そんなのは見たことないけど。」


魔王は首を傾げた。


「じゃ、誰が片付けてくれたんだろう。」

「もしかしたら、ユウさんが掃除をしてくださったのでは?」


セナがレイに向けて聞いた。


「あの子が部屋の外に出る訳ないでしょ。」

「それはそうですね…」

「ユウって誰?」

「もう一人の職員でございます。レイさんの双子の方ですが、人との関りが苦手だそうで部屋から滅多に出てこられません。」

「ユウちゃんの部屋はどこ?」


セナは吹き抜けの天井を指した。


「最上階の一番奥にあるお部屋でございます。」


その時だった。

ズドン!

上の暗闇から人が落ちた。


「ヒイイッ!」


魔王はびっくりして座ったまま後ずさりした。


「ユウさん!」


セナは焦って床に伏せて動かないユウに近づいた。レイだけは余裕で水を飲んでいた。


「またか。気にしなくていいよ。その子いつもそうでしょ?廊下で誰かとすれ違うくらいなら、上から落ちたほうがマシとか言って。」

「それはそうですが…」

「防御魔法は得意だから大丈夫。」


それでもセナはユウの様子を見ようとした。セナがユウの黒いボサボサの髪に触れようとする時だった。ユウはいきなり首をあげ、小さな声で呟いた。彼女の目は真っ白で瞳が見えなかった。


「私の物…」


そして獣のように四つん這いになり、レイに飛び掛かった。レイは予想でもしていたというように肉まんとカップを持ったままひらりと躱した。すると、ユウはイラついたように一層激しく、レイを狙った。


「どうしたんだろう。」


魔王はすばしっこい動きでセナの背中に隠れた。


「姉妹喧嘩をされていると思われます。」

「いきなりどうして?」

「それは私も…」


ユウは手足を大きく振り回し、レイに殴りかかろうとした。だが、レイは身軽な動きで爪の攻撃は受け流し、タックルはジャンプで回避した。彼女は攻撃を避けながら饅頭を食べる余裕まで見せた。


「すごい。二人とも武道家みたいじゃん。」

「本当ですね。普段より迫力が感じられます。」


癪に障ったのか、ユウの動きはだんだん速くなってきた。レイは疲れたのか少しずつ鈍くなり、危うげに見えた。魔王とセナは手に汗握り、饅頭を口に咥えたまま双子を眺めた。ユウのつま先がレイの饅頭を掠めた瞬間だった。


「あ、分かった!ユウちゃんは夜食が食べたいんだ。ずっと肉まんを狙っている。」

「本当そうですね。呼ばれなかったことが寂しかったのかも知れません。」

「なんだ、饅頭が食べたいなら食べたいと言えばいいのに。」


魔王は鍋から残り一つの饅頭を取り上げ、喧嘩をしている姉妹に近づいた。そしてユウの手首を捕まえ、引っ張った。ユウの顔が魔王に向くと饅頭を口に押し込んだ。


「戦わなくてもいいの!まだ残っているから!」


饅頭を口に突っ込まれたユウは痙攣し始めた。すると、冷たいオーラを纏った透明な霊が背中から出て来た。


「私の物…」

「ヒイイイッ!本物の幽霊だ!」

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