第27話 聖水アレルギーと辛い肉まん

魔族にとって聖水は毒。聖水に当たった魔王の身体にもすぐ反応が出た。

ハクション!


「うう…かゆい…」


魔王はくしゃみをしてマスク越しの鼻をこすった。普通の魔族なら純度100パーセントの聖水に接触するだけでやけどをしたはずだが魔王は魔王。アレルギー反応しか出なかったのだ。


「お止めください!」


セナは黒髪の少女と魔王の間を割って入った。


「セナちゃん、危ないよ!それ昨日見た幽霊だから!」

「ご安心ください。この方はうたたねの宿の職員です。レイさんと申します。」

「え?ほかにも職員がいたの?」

「ええ。」

「でも初めて出くわした時、記憶がなくなったよ!取り憑かれると記憶はなくなるんだもん。」


レイと紹介された黒髪の少女は無表情で突っ込んだ。


「君が気絶しただけ。」

「でも部屋に運ばれていたし、ロビーの魔法陣もなくなっていたし!」

「私が運んだ。掃除もついでに。」

「じゃ、あの点滅している灯は?この冷たい空気は?」


レイはスカートのポケットから魔石電球を出した。


「あれ、壊れたから。倉庫から新しいの持ってきた。」

「そう言えば、夜に寒いのは当たり前のことでございますね。」


魔王は話すことがなくなった。


「幽霊は元々いなかったってこと?」

「さあね。今日は手伝わないから。ちゃんと掃除しておいて。」

「申し訳ありません。朝までは綺麗にしておきます。」


レイは答えず魔法陣を避けてカウンターに行った。


「ごめんね、セナちゃん。馬鹿なことに巻き込んで。」

「大丈夫です。幽霊がいないということを確認したうえ、もしものことも予防できたと存じます。」


その時、魔法陣の炎が弱まり、真ん中にあった鍋が二人の前にゆっくりと浮かんできた。


「餌に火が通ったみたい。」

「本格的に効果が出るようになりましたね。」

「うん。でももう使い道もなくなったし、どうしよう。」


魔王は蓋を開けた。湯気と共に饅頭の匂いが漂った。


「確かに幽霊も誘われるような美味しいにおいがしますね。」

「故郷ではそうじゃなかったけど、ここで作る餌はなんだかそうなる。」


セナが饅頭に入れたのはいろいろだった。脳みそ代わりの豚ひき肉。体から幽霊を剥がす玉ねぎ。霊に穢された魂を洗うショウガ。そして勝手に入れた竹の子やシイタケ。その結果完璧な肉まんになっていたのだ。


「捨てるのはもったいないので食べるのはいかがでしょうか?」

「でも、これ餌だもん。食べてもいいかちょっと…」

「前回の餌はどう処理なさいましたか?」

「食べた。」


セナは笑顔を見せた。


「では、食べましょう。」


セナは餌として作った饅頭を一つ取り上げ、魔王に手渡した。そして魔石電球を変えたばかりのレイを呼んだ。


「レイさんも食べてください!」

「新人はいいとして、君にはすでに言ったはずなんだけど。一人の時間は邪魔されたくないって。」


そう言いながらも、レイは素早い足取りで近寄りセナから饅頭を取った。それからセナも自分の饅頭を取り上げ、一口食べた。


「立派な肉まんでございます。」


そばで食っていたレイは頬っぺたを饅頭で膨らませて言った。


「悪くない。」


だが、魔王だけは饅頭を口に入れることを躊躇っていた。これは聖水で蒸したもの。肌に当たるだけで痒くなるものが体に入ったらどうなるか分からない。

グーグー

魔王は饅頭を美味しく食べる二人を見てお腹が空いて来た。彼女は後のことは後で考えようと決めて饅頭を口に咥えた。

布団のようなふわふわの皮からぐっすり眠った時の夢のように温かい中身が漏れ出た。ポロポロ粒が立っている夢の数々が口内を一巡り、物語の塊になって喉に滑り落ちて行った。そして少し刺激的な後味が残った。


「これちょっと辛いかも。」


魔王は言った。


「辛い味なんかちっともしないけど。」

「私も辛さは全く感じませんでした。」


魔王は首を傾げた。


「恐れ入りますが、何かのアレルギー反応ではありませんか?この肉まんは召し上がらない方が良いかと。」


セナの言う通り魔王が辛さを感じるのはアレルギー反応だった。聖水へのアレルギー反応。だが、魔王は悩まず饅頭をもう一口かじった。


「美味しいから大丈夫!」


三人は夜食パーティーを楽しんだ。その中の誰も気づかなかった。宿の最上階に餌の匂いを嗅いだものがいることに。

キィー


「グルルルー」


誰も近づかない部屋のドアが開いた。

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