第29話 三人寄れば気絶する

慌てる魔王が幽霊の目を引いている隙に、レイはポケットから聖水を取り出し、幽霊に吹きかけた。


「キャー!」


後ろから不意を突かれた幽霊は悲鳴を上げ、光る粉になって空中に散った。取り憑かれていたユウは糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。


「本当にいたんだ。」


レイは信じられないというようにキラキラと消えていく幽霊のかけらを見つめていた。

ハクション!

聖水の粉末に当たった魔王はくしゃみをした。


「あたしの計画通りじゃん!」


魔王は誇らしそうな顔をして腕を組んだ。


「うそ。ビビッていたくせに。」

「ちょっと驚いただけだもん!」


レイが鼻を鳴らすと魔王は両手を体の脇でピンと伸ばした。


「ユウさん、大丈夫ですか!」


二人が口喧嘩をしている間、セナは倒れたユウを揺り起こした。


「う……う……」


暫くして、ユウは重そうに瞼を開けた。真っ白だった瞳が黒に戻っていた。


「せ、セナさん……?」


彼女はゆっくり体をひっくり返し、レイの方を見て上体を起こした。


「お姉さままで……」


左右を確認して自分がどこにいるのか気づいたユウは身を縮めた。


「あれ……?私がどうしてロビーに……?」

「君、幽霊に取り憑かれていた。あの子が除霊してくれたから礼を言いなさい。」


ユウは振り向いた。そこには胸を張って両手を腰に当てている魔王がいた。感謝の言葉を待ちわびているように鼻息を荒くして。

二人の目が合った。ユウはそのまま固まって動かなかった。自慢げな表情で目を閉じていた魔王は時間が経っても何も言われないと片目を開け、様子をみた。


「ユウさん?」


セナが呼んでもユウは答えなかった。魔王はユウが恥ずかしがっていると思い、肩を叩いてやった。


「緊張しなくていいから!」


すると、ユウは白目をむいて気を失った。


「ヒッ!あたしそんなに力入れてないのに!」


魔王は慌てだした。


「そう言えばこの子、初対面の人は苦手だった。」

「それより、周りに三人以上いると気絶する傾向があるという事を忘れていました。」

「部屋に戻してあげないと。」


そう言って、レイは残りの饅頭を口に入れ、一階の廊下に足を向けた。


「ユウちゃんの部屋は一階じゃないじゃん?」

「そう。でも私の部屋は一階よ。」

「ユウちゃんは運んであげない?」

「うん。五階は高過ぎる。」


レイは、カウンターから一番近い部屋のドアを開けた。


「私は今から休む。君は明日お客さんたちに迷惑かけないよう朝まで全部片づけておきなさい。」

「ひどい!」

「心配要りません。私も手伝いますので。」


セナが笑顔で言った。


「君は寝なさい。明日も忙しいでしょ?新人はまだ仕事がないから大丈夫だろうけれど君が体調崩すのは困る。」

「ですが…」

「私の業務が増えるのはごめんだよ。」

「かしこまりました。」

「じゃ、失礼。」


レイは部屋に入り、ドアを閉めた。


「冷たい。」


魔王は唇を尖らせた。その時だった。我に返ったユウがガバっと起き上がった。


「ヒイイッ!」


魔王はびっくりして飛び跳ねた。


「す、すみません……驚かせちゃって……」


魔王は咳ばらいをしてユウに聞いた。


「具合はどう?」

「平気です……大勢の人たちに囲まれて眩暈がしただけで、今は大丈夫です……」

「大勢…?」


と呟く魔王にセナは頼んだ。


「マオウノ様、申し訳ありませんがユウさんを部屋まで運んでいただけないでしょうか。気絶から目覚めたばかりで、まだその影響が残っているかもしれませんので。」

「分かった!」


魔王はお姫様だっこでユウを持ち上げた。


「あ、あの……」

「私は皿洗いをしてきます。レイさんの話も一理ありますが、除霊の為に一緒に散らかしたものをマオウノ様にだけ押しつけることはできません。」


セナは鍋を持ち上げた。


「ありがとう、セナちゃん。でも本当に一人でいいから。」

「あの……!」


ユウはもう少し大きな声で二人の会話に割って入った。


「私も手伝わせてください……!」

「ですが、体調が…」

「私のせいで困っているんですよね……私、いつも迷惑かけてばかりですけど、何か役に立ちたいです……」


セナは悲し気な表情でどう答えればいいか考えた。実はユウの具合への心配もあったが、引きこもってばかりいたユウに仕事を任せてうまくいくかへの心配もあったのだ。


「じゃ、一緒に掃除しよう!あたし、ユウちゃんと片付けておくからセナちゃんはもう休んで。」


魔王はユウを床に立たせてあげた。セナは魔王の答えを聞いて少し恥ずかしくなった。役に立ちたいという気持ちは、一応信じてあげればいいのだ。彼女は鍋を床に置いた。


「そこまでおっしゃってくださるのなら、お先に失礼します。」


セナは自分の部屋に戻った。残された二人はロビーの魔法陣を消し、鍋を洗い、バケツに水を汲んで各階へ向かった。

そんな彼女らの動きを一匹のハムスターが見張っていた。

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