第11話 聞き分けのないこと

「恐れ入りますが、これは多少理不尽な決定なのではないかと。」


ロビーから出ようとする社長はセナの発言を聞いて足を止めた。


「何が理不尽だと言うのかしら。」

「社長はお客様たちが来る前に結果を出そうといらっしゃいました。」

「客が来る前に出していたら合格したはずだってことね。」

「さようでございます。」


社長はちょっと考えてから言った。


「確かにそうよ。ちょっと不器用な所もあったけどやり遂げようとする態度を見せてくれたから。」

「では考え直してください。私が責任を取ってマオウノ様に敬語を教えます。」


敬語!魔王は自分が何を間違えたのかやっと気づいた。もてなしのセリフを言うとき、ため口を使ってしまったのだ。この馬鹿!馬鹿!と思いながら彼女は自分の額を軽く叩いた。


「セナちゃんが我儘いうとか珍しいね。でも私がユリアちゃんを落としたのは敬語のせいじゃないということぐらいは理解してるでしょ?」

「それは…」


魔王は額を叩くのを止めた。敬語の問題じゃなければ何が問題なんだろう。


「ユリアちゃん。」

「う…はい!」

「自分がどうして落ちたのか分かってる?」

「…」


魔王は勿論答えられなかった。


「うちがやってるのは接客業だよ。一番重要なのはお客様の心。でもユリアちゃんはそれを踏みにじった。合格させたとしてもあんなことすると退職してもらうのが当然。セナちゃんの意見はちょっと違うかしら。」

「…いいえ。」

「じゃ、話は終りね。」


社長は振り返った。


「今日働いた分で今までの宿泊代は全部払ったことにしてあげるから、ユリアちゃんはすぐ着替えて出て行くこと。」


コツコツ、靴の音を立てながら遠くなっていく背中にセナは言った。


「社長、こんな遅い時間に追い出すのは…」


でも答えを貰えなかった。彼女は拳をぎゅっと握って告白するように言い続けた。


「私、楽しかったです。ユリア様が親しくして下さるのが。私の説明をちゃんと聞いて学ぼうとしてくださるのが。自分の弱さを正直見せてくださるのが。」


社長は止まらなかった。


「すみません。心を打ち明ける仲間ができそうで、聞き分けのないことを申しました。」


コツコツ、という音が止まった。社長はため息をついてフロントの方を向いた。


「仕方ないわね。私の負けよ。ユリアちゃん、好きなだけ泊まっていいから。」


魔王とセナは驚いて同時に声を出した。


「ありがとうございます!」

「え?ありがとう!」

「そんなに喜ばなくていいよ。面接の結果が変わったということじゃないし、ただで泊まらせてあげるということでもないから。」


その晩、魔王とセナはまた住み込みの部屋のベッドで並んで横になった。今回は魔王が壁側、セナが外側だった。二人は暗闇の中で顔を見合わせていた。


「ありがとう、セナちゃん。お陰様で追い出されなかった。」

「いいえ。ユリア様が頑張ってくださった結果でございます。」

「面接は合格できなかったんだけど。」

「明日仕事をくれるっておっしゃいながらも合格ではないなんて。なんの仕事くださるおつもりでしょう。」

「なんでもいい!ここにいるのは幸せだから!」


魔王は体をひっくり返して寝る姿勢になった。


「お休み!今日はベッドから蹴り落さないでよ。」

「昨日は大変申し訳ありませんでした。今日は私が外側におりますからご心配なさらず。」


その日、魔王がベッドから蹴り落されることはなかった。でもセナの寝相はそのままだった。セナは大の字になって魔王を下敷きにした。


「苦しい…」


魔王はセナと壁の間で押しつぶされたままろくに眠れず、疲れたまま起きた。外にはもう新しい仕事の日が明けていた。

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