第12話 追い出されないための条件
魔王は朝っぱらから社長室に呼ばれた。彼女は開かない目をこすりながらセナに手を引っ張られぼんやりと歩いた。
「マオウノ様、着きました。」
セナが社長室のドアを開けてくれた。魔王が入ると後ろからドアが閉まった。魔王はへとへと進み、机にぶつかった。
「あら、大丈夫かしら。」
魔王は目を閉じたまま頷いた。
「あんまり眠れなかったみたいね。」
「でかいタコに絡まれて死にそうだった。」
「タコ?あ、セナのことね。隣の人を蹴ったり押しつぶしたりするそうだから。」
「眠い…」
社長は居眠りするように見える魔王を見て怒るどころか口元を押さえて笑った。
「私の気遣いが足りなかったわけね。ここで泊まらせるって決めたからには心地よい環境を作ってあげないと。新しい部屋、用意しとく。」
彼女は一回拍手をして立ったまま寝ている魔王を起こした。
「えっ!」
「ここからは大事な話だからちゃんと聞いて。」
「うん…いや、はい…」
魔王はまだ眠い声で答えた。
「ユリアちゃんには今日から食事の配達をして貰いたいの。」
「配達?」
「そうよ。力も強くて体力もあるから。向いてると思うわ。宿の仕事じゃないから面接とは関係ないし。接客じゃないから敬語とかは気にしなくていいし。」
「確かに。」
「これはここで泊まらせる代わりにすること。昨日言ったでしょう。ただでは泊まらせないって。代わりに食事とお小遣いは提供するから。」
魔王は目をキラッと覚めた。食事も提供してくれるんだ!彼女にほかの物はいらなかった。美味しいご飯を毎日食べられるってこと一つでもうやる気は満々だった。
「あたし頑張る!」
「いい勢いね。本格的な仕事は来週から任せるつもりだから今日はゆっくり休んで。」
魔王は社長室を出た。
「お話はいかがでしたか?」
廊下ではセナが待機していた。
「えっ、セナちゃん?待ってくれたの?忙しいのに。」
「まだ早いですから、余裕あります。そんなことより、どんな仕事を任せられるようになりましたか?」
「食事の配達。来週から始めるんだって。」
セナは手を合わせた。
「あ、配達ですね。昔から事業計画はお建てになっていらっしゃったみたいですが、適任者を見つけられず実行できませんでした。」
「じゃ、あたしが適任者ってこと?」
「ええ。社長はいつも『食事が冷める前にお客様の元へ届け、馬車の入れない所まで行ける』者を求めていらっしゃいました。マオウノ様は力持ちですから試してみたいと思われたのではないかと。」
「兎に角、飯をくれるって!」
魔王は他のことは考えず、それだけが嬉しいというように明るく言った。セナはそれが少し気に掛かって助言してあげた。
「それはいいですね。ですが、社長は利害打算の明るい方でございます。挑戦は恐れませんが損失ができたらすぐ手を引きます。恐れ入りますが、下手にすると配達業もその一つになる心配があるかと。」
魔王の顔に不安が映った。
「どうしよう、そうなるとまた追い出されるかも。」
「本格的な業務は来週からですから、仕事がうまくできるよう前もって練習して置くのはいかがでしょうか。」
「いいアイデアじゃん!さすがセナちゃん!」
「速い配達の為には体力も重要ですが、道に詳しいのも大事なはずです。直接配達してみながら慣れていきましょう。」
「うん!」
魔王の表情は一時的に明るくなって来たが、また暗くなった。
「でもどこに何を配達すればいいんだろう。」
「フレイヤとリーフの所に私の作った料理を配達なさってください。距離も遠くありませんから練習の初めに適しているかと存じます。」
「いいの?」
「ええ、余裕あります。」
「じゃ、今すぐいこう!」
と言いながら魔王は大きなあくびをした。
「昨日も私の寝相が酷かったみたいですね…申し訳ありません。」
「ううん。大丈夫。」
魔王はもう一回あくびをした。
「出発する前に少しでもお休みになるのはいかがでしょうか。時も早いですし、配達は昼食に合わせた方が良いかと。」
「じゃ、そうしようか。」
廊下を歩いている時からすでにまぶたが重かった魔王は、ベッドに倒れ込むやいなや眠ってしまった。いくら魔王でも二日連続の睡眠不足は耐えられなかったのだ。
昼頃、彼女が起きた時にはもう配達用の食事が完成されていた。
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